英雄と墓標
(命)


 
ここにあるのは静寂
ここに在るのは滅びの気配
ここに残るモノは何もない
いつの時もここには滅びの気配が存在していた

開け放たれた扉が見えた
あり得るはずのない光景
あってはならない光景に、彼らの全身は凍り付いた
避難した先のこの場所で、扉を開け放つなどということはあり得ない
そして、予測される出来事
―――陥落
脳裏に浮かぶ言葉を振り払い、誰からともなくその場所へと駆け寄る
―――後にして思えば何と無防備な行為だろう、私達はろくな警戒もせずに避難施設へと走り寄っていた
扉へと近寄るごとに強くなる血の臭い
施設内へと身を滑らせると同時に目に映る光景
―――強い死臭
無惨な光景に、脳裏が真っ白に染まる
そして………
気が付けば私は、最後の部屋へと続く扉の前へ立っていた
無情な惨状
信じたくはなかった光景
扉を守る様に息絶えた彼の人を前に私は、私達は足が止まる
嘆きの言葉と祈りの言葉
それから、どこまでも深い後悔
そうしてようやく意識を向ける扉の先
半ば壊れた扉に、その結末を伺い知ることが出来る
覚悟の上で足を踏み入れた彼らが見たのは―――

祈りの言葉が響く
彼の場所で命を落としたすべての人々へと捧げる言葉
誓いの言葉が流れる
彼の地で願いを込めたすべての人々へと誓う言葉
―――誓いは守る、必ず………
彼の地にて眠る方に思いを馳せる
どれだけ長い時間が掛かろうとも………
海から吹き寄せる風が、彼らの声を運んでいった

目にしたのは破壊の爪痕
実感したのは経過した時間
そこには誰も残っていなかった
いつの時もそこには滅びの気配が存在していた

酷い音で警報が鳴った
既に必要の無くなったはずのモノ
聞こえるはずの無い音
その音が何を意味するのか知らず
共に居たその人の顔色が変わった事に不安を覚えた
外へと飛び出した彼の後を追って目にしたのは………
大きく開かれた扉
―――もはや開くはずのない扉
奥の方から聞こえる、音
―――爆発音、破壊の音
音に引き寄せられる様に入り込んだ扉の中
目の前に現れる破壊の跡、滅びの跡、そして死の影
次第に近くなる破壊の音
ああそうか、あれはここが危険な状況に在る事を警告したのか
遠い昔、守る為に設置された装置
彼等が残した約束―――誓い
程なくして―――
奥へと続く通路の一つに倒れ伏した女性の姿
駆け寄る姿と必死で名前を呼ぶ声
そうして記憶が途切れる―――

悲痛な顔をして大人達が帰ってくる
彼らが数人掛かりで運ぶ大きな荷物
―――棺
そして大人達の後ろから歩いてくる、老人と少年の姿
………ああ、そうか
その姿に村人達は何が起こったのか理解する
高く、長く鐘が鳴る
鎮魂の音
無念の死を迎えた者に送られる慰めの音
あの地で亡くなった者に送られる祈りの音
村人達は一様に、あの場所へと視線を送る
彼らがやってきた方向へ
悲劇の始まりの場所へと視線を送る
―――なぜ、こんなコトに?
答える者は誰もいない
誰も答えられる者はいない
葬送の列が生まれる
嘆き悲しむ人の声が続いた
 

 
ラグナサイドへ スコールサイドへ