英雄と墓標
(昔語り SideL)
昨日あの場所が崩壊した
ガルバディアの奴等は、あまりにタイミングの良い出事に首をひねりながらも追求はせずに、この地を立ち去る準備を始めている
彼等が何を思っているのかは知らない
だが、これ以上関わりになるつもりが無いって事は、正直ありがたい
あの場所が崩れ落ちた以上、もうあそこを訪れる者はいないだろう
ようやく訪れる静寂
じきにあの場所の事は、人々の記憶から忘れられていくだろう
………それでいい
何もかも忘れ去られ
この地からも人が消えて行く
それが、そう遠く無い未来の光景
これ以上この場所に留まる事はない
遠い祖先の願いは叶っている
これ以上有りもしない罪に縛られる必要もない
ラグナは眼下に見える施設の跡を見つめる
どうか安らかに―――
言葉にはしない思いが溢れた
あの場所で起こったこと
そして疑問の数々
いつもより饒舌にスコールが語る
「あの場所の崩壊、何で解った?」
語り終えたスコールの言葉に、ラグナは組んでいた腕を解く
「警告が鳴ったからな」
訝しそうな顔をするスコールへと、壁に埋め込まれたソレを指し示す
あの施設と連動する唯一の仕掛け
この地に居を構えた彼等が作り上げた精巧な機械
「………なんでそんなモノがあるんだ?」
彼等がたどり着いた時には、あの場所には何も残っていなかった
確かに、あの時あの場所には何も無かった
スコールが疑うようにこちらを見ている
「そこまでは知らねぇ、当時はまだ何かが残っていたのか、壊されたくなかっただけなのか、それとも“敵”が現れるのを待っていたのか………」
そうじゃない、誰にも手出しする事の出来なかった一つの仕掛け
―――たった一つ残されていたモノ
「機械が生きているのを知っていたのか?」
何故だろうな、スコールが話をそらす
スコールの視線の先にあるのは、残された機械
壁に刻まれた模様の一部にしか見て取ることの出来ない精巧な機械
コレがそんな機能を持つなんて事は聞かなければ解らないだろうな
「今も生きてるとは思わなかったけどな………」
ラグナは役目を果たし、動かなくなった機械を目にする
「ずっと昔に鳴ったことがあるのさ」
聞かなくても知っていた、見たことがあったから
ずっと昔に聞いた音
ずっと昔に見た光景
スコールは気が付いただろう、あの場所に残された違和感に
脳裏に浮かぶ光景
―――悲劇の跡
問いかけるようなスコールの視線に、ラグナは頷き返す
ああ、あの場所に刻まれた傷はその時のモノだ
「動くはずの無い機械が動いた跡さ」
動き出した機械がとったのは侵入者の排除
警告の音を発し続けた機械
そして、あの時目にした―――
ラグナは記憶を振り払うように、首を振りゆっくりと息を吐き出す
口を開きかけたスコールを笑顔で制して、
「スコールが手を触れたら何かが動いたって言ったよな?」
さりげなく発する問いかけ
「ああ」
スコールは難しい顔をして黙り込む
あの場所の破壊の一因となったことを後悔しているんだろうか?
それなら必要はない、あの場所を開放してくれたことに、どちらかと言えば感謝の言葉を贈りたいが………
「何が動くはずだったのかは解らない、けどなスコールに反応した原因はなんとなく解る」
伝える事の出来ない感謝の代わりに、少し真実を話そう
あの地に関わりがあると解れば、スコールも少しは違った思いを持つだろうか?
「血が濃いんだ」
俺を通して、流れる血
それが良いことだとは少しも思わねぇが、変えることの出来ない事実
「………血?」
スコールの眉間に皺が寄る
「あそこは壊れちゃいるが確かにセントラ時代の施設だ、それも特別な意味を持つ場所だ、スコールもガルバディアの連中が扉を開けるのを見ていたから知ってると思うが、あそこはそう簡単に開かない」
ラグナはスコールから感じる困惑を無視して話を続ける
テーブルの上へと置いた金属片
「開けるには鍵がいる」
これが、あの施設へ入る為の唯一のキィ
これを持たなければ、ここに住む村人でさえも、あの中に入る事は出来ない
「だが鍵を持たない人間が何かから逃れるために使用する可能性だってあったはずだ」
それ以前に、あの中へと避難した人々は、外から来る迎えを待っていた
―――もう安全だと告げる人の訪れを
「だから手を打ったのさ、“セントラ”の人間以外は利用できないように………」
“セントラ”の住人、“セントラ”の血を色濃く残す者
同族の者しか開ける事の出来ないはずの扉
施設内の要所要所へと仕掛けられた機械が、手を触れた相手の遺伝情報を読み込んでいる
スコールが何かを考えている
「スコールが思った事は多分当たってるぜ、この村の人間は血が薄まってる、あの場所が反応することは無いさ」
この場所はガルバディア、ガルバディア人は早い時期にセントラと袂を別っている
この地に住む以上、どうしたところで血は混ざり合う
どれほどに、血の濃さを保つ為操作をしたとしても―――
「どういう事だ?」
古代セントラの血を確保する為に重ねられた村内での婚姻
察しているのだろうスコールが不快そうな顔をする
「そういうのもあったみたいだけどな」
そう、それも事実の一つ
確かに、守人であるあの家は、流れていた血は他の家々よりも濃かっただろう
だが………
解るだろうか?
スコールは気が付くだろうか?
様々な感情が胸の内を通り過ぎる
「俺な、セントラの生まれなんだ」
―――真実に―――
長い話をした
少しだけ昔の話
実際にあった過去の出来事
確かにここに居たあの人の話
彼女はある時この家を出た
この村さえも出て行った
どこに行って何をしていたのかは、まぁ言うような事じゃない
「俺がこの家に来たのは十の時だ」
あの人に連れられて、この家に迎えられた
遠いこの場所へ迎えられたのは俺一人だけ、他に居るはずだった人はいなかった
それからしばらく―――五年程続いた平穏な暮らし
そして
「あそこのな、一番奥の部屋、あそこの機械は三十年ほど前に一度動いてる」
鳴り響いた音
顔色を変えたじいさんの姿
「何が原因で、どういう状況だったのかは解らない」
何故破壊しようとしたのか………
「あの場所で、仕掛けを作動させたのが―――」
施設の破壊をしようとしたあの人を襲った仕掛け
―――また鐘の音が聞こえる
次へ そのころのスコール
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