英雄と墓標
(昔語り SideS)


 
昨日、あの場所は崩壊した
あの時起きた出来事を誰も追求しようとはしない
どういう心境なのか、偶然の出来事として片づけるつもりらしい
確かに造られた年代は古い
中の状態も、いつ壊れてもおかしくはなかった
一度に大勢の人が中へと入り壁や柱に手を触れた事が原因と言われれば、それはそれで納得出来る範囲かも知れない
手の中に感じた振動
耳に聞こえた機械音
手の触れた柱の感触が蘇る
あの場所の崩壊を招いたの自分だ
それに―――
新しすぎた傷跡
存在するはずの無いガルバディアの文字
そして、崩壊する施設の外にいたラグナの姿
スコールは厳しい顔で、丘の上の家を見つめる
何か、知っているはずだ

あの場所で起こったこと
そして疑問の数々
ラグナはただ黙ってスコールの話を聞いていた
「あの場所の崩壊、何で解った?」
話を終えたスコールはラグナから視線を逸らさぬまま、冷えたコーヒーを口に運ぶ
「警告が鳴ったからな」
そして教えられるこの家に残された1つの仕掛け
あの場所に攻撃の手が加えられた時に作動する警告
「………なんでそんなモノがあるんだ?」
あの場所には何も残っていない
ラグナの話では、この地に住む人間の祖先がここに辿り着いた時には、全てが終わった後だったはずだ
「そこまでは知らねぇ、当時はまだ何かが残っていたのか、壊されたくなかっただけなのか、それとも“敵”が現れるのを待っていたのか………」
ラグナの顔に浮かぶ暗い影
―――これ以上は聞くべきじゃない
頭の奥で何かが囁く
「機械が生きているのを知っていたのか?」
壁に埋め込まれた機械はあまりにも壁にとけ込んでいて、ソレがそういうモノだとは解らない
「今も生きてるとは思わなかったけどな………」
ラグナの視線がソレへと向かう
「ずっと昔に鳴ったことがあるのさ」
以前に作動した警告
警告が鳴るのは、きっと何かの衝撃を受けたときだ
スコールの脳裏に浮かぶのは、最後の部屋の様子
―――新しすぎた傷跡
ラグナが軽く頷く
「動くはずの無い機械が動いた跡さ」
ラグナが首を振り、息を吐き出す
問いかけようとした言葉は、向けられたラグナの笑顔と言葉に封じられる
「スコールが手を触れたら何かが動いたって言ったよな?」
「ああ」
原因では無いと思うが、崩壊の切欠になった出来事
「何が動くはずだったのかは解らない、けどなスコールに反応した原因はなんとなく解る」
………俺に反応した?
「血が濃いんだ」
ラグナの口元が寂しげに歪む
「………血?」
なんの話だ
「あそこは壊れちゃいるが確かにセントラ時代の施設だ、それも特別な意味を持つ場所だ、スコールもガルバディアの連中が扉を開けるのを見ていたから知ってると思うが、あそこはそう簡単に開かない」
テーブルの上に、置かれる金属片
「開けるには鍵がいる」
歪んだ形に、焼け焦げた跡
「だが鍵を持たない人間が何かから逃れるために使用する可能性だってあったはずだ」
確かに緊急の時に利用できなければ意味の無い場所だ
「だから手を打ったのさ、“セントラ”の人間以外は利用できないように………」
セントラの血、遺伝子情報?
ラグナがここの出身だから、か?
ここに住む人々はセントラの末裔
血が残っていてもおかしくはない
だが、ここはガルバディアだ
スコールは、ラグナの顔を凝視する
「スコールが思った事は多分当たってるぜ、この村の人間は血が薄まってる、あの場所が反応することは無いさ」
ろくな伝承も残らないほど昔の話
セントラとは随分離れた場所で、純粋な血が残るはずはない
「どういう事だ?」
村人の血が薄いというのは納得出来る、なら何故?
ふと、守人だと言ったラグナの言葉が思い出される
まさかこの家は、血を守ってきたと言うことだろうか?
「そういうのもあったみたいだけどな」
ラグナが不思議な表情をする
「俺な、セントラの生まれなんだ」
何でも無いことの様に言われた言葉は、理解するまで多少の時間がかかった

長い昔話を聞いた
ラグナに関わる話
随分昔の、今はいない人の話
かつてこの家に住んでいた人
―――ラグナの、母親

彼女はある時この家を出た
この村さえも出て行った
どこに行って何をしていたのかは、まぁ言うような事じゃない
「俺がこの家に来たのは十の時だ」
この家に戻ったのは二人
ラグナは、自分の父親がどうなったのかは言わなかった
その頃に何かがあったのか、始めから居なかったのか
………きっとその頃に何かがあったんだろう
そして
「あそこのな、一番奥の部屋、あそこの機械は三十年ほど前に一度動いてる」
ラグナが警告の音を聞いた時
あの部屋の状況を作り出したとき、か
「何が原因で、どういう状況だったのかは解らない」
ソレを知っていたら、あの場に居たということになるだろうな
「あの場所で、仕掛けを作動させたのが―――」
ラグナの声に重なって、鐘の音が聞こえた 

 
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