英雄とセントラの謎
(調書)


 
セントラで過去に起きた事を調べたい
初めてそう告げたのは何年前の事だろうか?
ラグナがエスタへと来る前の出来事
魔女アデルがエスタを支配する前の出来事
押しやられた歴史、過去の出来事へと興味を向けるラグナをエスタの人々は快く歓迎した
そうして、案内された場所、指し示された膨大な資料
―――この資料室を初めて見たときはそれこそ呆然としたな
雑然と押し込まれた資料の数々
「随分マシになったよなぁ」
初めて目にする人はとんでもない光景だと思うだろうが、これでもここに出入りを繰り返したラグナの努力で資料の整理が進んだ方だ
魔女アデルが消し去ろうとした歴史書や重要書類、数々の資料を急ぎ隠した結果
アデルの支配から逃れた後も、急がしさ故に手をつけられることなくそのままの状態でこの場所に雑然と置かれていた
………あの時よりはマシになったといえ、今もその状態は大して変わらない
ここに在る過去の資料が必要になる事は最近では無かった
ここに整理の目が向けられるのは“魔女”が居なくなったこれからだろう
ラグナは足元に注意を払いながら、資料に手を伸ばす
過去に見た資料
比較的新しい“その時”の資料
セントラに発生するモンスターの集団
他の土地では見ることの出来ないモンスターの行動
長い歳月の中で幾度となく書き記された特殊な行動
そして、エスタが把握する限り、一番最近の時間
40年前の出来事
ラグナは整理が終わった資料をゆっくりと辿る
当時モンスターと遭遇したというエスタ軍の作戦の詳細
その時のエスタ軍の行動の数々が、襲われたというセントラの“村”の状態と共に詳細に書き記されていた
内容の大体の所は覚えている
「あんまり自信もねぇしな」
資料を辿っていたラグナの足が止まる
―――この辺か
時代別に並べた資料の数々
彷徨っていた手が一つの資料を取り出す
セントラ大陸に関する記述
モンスターの異常発生時における軍の活動報告
ラグナは資料を手に部屋の片隅へと向かった

報告書へ書きつづられている幾つかの事実
モンスターとの交戦の様子
傷を負い傷ついても尚、排除しようと向かってくるモンスターの様子、行動
詳細に書き記されたソレは、通常のモンスターの行動とはまるで違うものばかり
恐怖に駆られ逃げ出した―――
そんな記述が見受けられないことが驚きだ
だが書き記されていないだけで、直接の戦闘は避けたのかもしれない
モンスターの集団につっこんで行く、なんてのは正気の行動じゃない
―――そうしなければならない理由があるならともかく、な
そして、実行されたという作戦
モンスターの身体へと仕掛けられた時限性の爆弾、発火弾の類
設定されたという時間のリスト
―――年単位の時間の狙いは何だ?
設定されている時間設定一覧リストの中にいくつか見受けられる1年〜5年という長い時間
以前は簡単に眼を通しただけの資料をじっくりと見つめる
過去のデータから推測される可能性
書き記されたされにラグナの手が止まる
………可能性が無い訳じゃない
その可能性は遠く昔から挙げられていた
もっと詳しく調べる必要があるな
セントラの観測を始めてからの資料の数々
ソレを一つずつこの場所から発掘している様な暇は無い
ラグナは立ち上がり、書架が並んだ奥の隙間へと足を踏み入れる
壁に触れた手に反応して微かな光がともる
扉を開けた隠し部屋の中へ躊躇うことなくラグナは足を踏み入れた
 

 
次のラグナサイドへ スーコルサイドへ