英雄とセントラの謎
(跡)
廃墟、とさえ呼べない
眼前に広がっているのは、荒れ果てた大地
嘗て街があったという場所には建物の残骸一つ残っていない
なにもかもが風化する程の時間が流れたのか
それとも、全てが無くなるほどの出来事があったのか
踏み出した足の下で、小さく砕ける音がする
じっと眼を凝らした先に見えるのは、何かの破片
人工物、建物の名残の様に思える
ここに街があったと知らされているから思いついたこと
何も知らなければ、欠片に気づかなかったと思う
何もたないただの大地
スコールはその地をゆっくりと歩く
何かが残っているかもしれない、なんて期待している訳じゃない
どこまでも開けた視界には、何一つ見えるモノは無い
―――期待は、この光景を眼にしたそのときに消えて無くなった
ただ、足が進む
海から吹く風が丈の短い草を揺らす
足元を、砂が舞い上がる
モンスターに滅ぼされたというこの場所は、何一つ―――襲撃の跡さえも残ってはいない
起こったはずの悲劇も、何もかもが無くなっている
スコールは足を止めて、遠くを見た
何かの音が聞こえた気がした
「モンスターが来るのよ」
大人びた目をした少女が言う
モンスター?
巡らせた視線の先で、大人達が目を伏せる
音のした方向へ視線を向けたスコールが見た物は、移動中の“家”の姿
集落とも呼べない様な、たった2家族の小さな集団
ようやく出会うことの出来た“セントラ”の末裔は、少人数でセントラ中を移動しながら暮らしているという
セントラに住む人の数を把握出来ないという理由がよくわかった
危険を感じればその場を立ち去ってしまう人々
移動する家は、停止していれば、ソレが移動可能だということに気づくことはできない
モンスターの手によって一夜にして住人が居なくなった、などというのは、案外これのせいで生まれた誤解なのかもしれない
「人が多く集まる所には、どこからともなくモンスターが現れ全てを破壊していく」
淡々とした声が言葉を綴る
生き物の気配が多くなれば、モンスターが現れる確率は確かに高くなる
だが、ソレがこの地がこのまま放棄されている理由には繋がらないはずだ
「モンスターが無防備な人間を襲うのはよく在る事、そう言いたいのでしょう?でも、違うのよ、外に居る、無防備な人間を襲うわけでは無いの」
何か、暗く重い気配を感じる
「モンスターは人の集う場所を狙う」
幾つかの集落がモンスターに攻め滅ぼされたという噂話
「人の集う場所を狙い、その地に潜む人を探し、逃げだした者を、殺す」
悲しみも、怒りも、何の感情も窺うことの出来ない感情の消えた声が言葉を紡ぐ
事実を事実として受け入れる声、言葉
人の住む場所へと現れるモンスターがいない訳じゃない
無防備にたたずむ人をモンスターが襲わない事など、滅多にある事じゃない
だが、それは―――
「セントラに住むモンスターとはそういうものだ」
それは、モンスターとは言えない
暗い気配がすぐ側まで身を寄せる
人とモンスターは相容れないモノ
モンスターを理解する事は人には出来るはずもない事
逆もまたしかり
だが、セントラのモンスターの行動は、その行動に意味をつける事が出来る
―――徹底的な破壊
それは争いの中で見られる行動
人と人が争う時の、行動
知らず、身体が震える
これは、人が抱く本能の恐怖
未知のモノへと出くわしたときの―――
「セントラに人が住むことは出来ない、それは真実だ」
スコールの側にあるセントラの民の姿がどこかぼんやりと映る
「だからこそ、人々はこの地を後にした、留まっていた者も代を重ねる毎にこの地から去った」
幾ら安全を確保したとしても、この地は、人が生きるには向かない場所だから
“セントラ”の民は僅か数える程しか残っては居ない
「あなた方は?」
ここに在る人達は本当にセントラの民だろうか?
それとも………
返答は無言、不思議な笑み
「セントラを知りたいならば、定住する人も訪ねて見ると良い」
定住する人………普通に暮らす人達も居るのか
遠く消えていく“家”の姿が見える
場所を移した彼等と別れ、スコールは車両へと乗り込む
「この地は、未だモンスターの呪縛から逃れられない」
遠く、年老いた言葉が耳を離れない
彼等は別れ際、一つの場所と一つの方角を教えてくれた
次のスコールサイドへ その頃のラグナサイドへ
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