英雄とパンドラ
(エスタ SideS)


 
「それじゃあ手続きの方をしてきます」
ゼルがそう断ると、カウンターへと歩き去った
窓の外の様子や建物を興味深そうに見ている依頼人には聞こえなかったのか返事は無い
スコールは側の壁に寄りかかって、何を見るでも無く辺りの様子を見ている
歴史学者だという依頼人と対面したのは数日前の事
簡単に話を聞いて、その場で依頼を受ける事を決定した
依頼人の素性はしっかりしたものだった
SeeDを雇う為の幾らかの金額は所有していた
こういった学者には名前だけの偽物も多いが
“歴史学者”と名乗れるだけの知識や経験にも確かに文句はなかった
歴史学者として本物である事が解ったから、誰も依頼を受ける事には反対はしなかった
少し離れた所で職員と遣り取りをするゼルの声が所々聞こえてくる
気が済んだのかホーキスが漸く、ゼルの方へと視線を向ける
「遺跡にはモンスター等の危険が潜んでいる可能性が高い為、向かう人間は必ず手続きをする事になっている」
問いかけの視線を感じて、スコールは視線を合わせないまま説明する
「何かに巻き込まれた場合の対処ということですね」
「それもあるが、申し出れば護衛と案内をしてくれるそうだ」
どちらも、危険地帯に勝手に入ったくせに大怪我をした等と騒ぎ立てる者が出るのを牽制する為の手段だ
「護衛はいらないですよね、もしかしたら案内の方は必要になるかもしれませんが………」
スコールへと伺う様な視線が投げかけられる
護衛は確かにいらない
案内の方は………
「遺跡の内部の事は知らない」
「遺跡までの道筋は知っているわけですね」
納得したように頷くとホーキスはゼルの方へと足を運んでいった
………遺跡の内部も、一部なら知っている
だが………
セントラの遺跡、それに関する歴史学者の意見が聞きたい
『あなたやゼルが行くような仕事じゃないわ』
仕事の内容、依頼者が払うことの出来る金額
派遣されるSeeDのランク、人物はそんなもので決まる
今回の依頼にスコールが就くことを告げた時に、キスティスを始めいろんなヤツから反対された
それを強引に押し切って任務に就いたのは
“セントラ”の中に埋もれた真実が知りたい
手続きが終わったのか、ゼルがホーキスと共に戻ってくる
「まず初めの目的地はルナティックパンドラな、ここは現地で兵士の監視があるらしいぜ」
ルナティックパンドラは厳密に言えば遺跡とは言えないが、歴史学者が見たいと願うセントラの遺跡は数える程しか存在しない
『あんな物、さっさと廃棄したいんだけどな』
以前そう言ったラグナの顔が思い出される
ルナティックパンドラには良い感情はない
エスタの人間だけではなく、それはSeeDも同じだ
「車を出します」
楽しげな表情をしたホーキスと複雑そうな顔をしたゼルを乗せて、スコールはルナティックパンドラへ向けて車を発信させた
 
 
 
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