(偽物 SideS)
余計な事をしてくれた キロスの目がそう語っている スコールの隣でゼルが申し訳なさそうに身を小さくしているが、この状況では謝った所で意味は無い 依頼人は“学者”という人間にふさわしく、ルナティックパンドラがどれほど重要なものかをまくし立てている ………大切な遺跡が傷つくだとか 今後の研究に弊害が生じるだとか……… ルナティックパンドラの中へと一度でも足を踏み入れ、実情を目にしていればそんな言葉が出てくる筈は無かったが、ホーキスはまだ中を確認していない ボロボロに壊れた中の様子を知らない 「あの中で戦闘を行うなんて、あなた方はせっかくのセントラの遺産を何だと思っているんです」 何度目かの言葉だ 何を言っても聞く耳を持たない相手に、キロスも返事をする気力が無くなった様だ スコール達へと向かってそっとため息をついて見せる 「モンスターが何だと言うんです、私には頼りになる護衛が付いているんです」 「………………」 その護衛というのは俺達の事だろう、が 俺達が受けた依頼、任務には“エスタの指示に逆らう”等という条項は含まれていない ゼルの問いかけの視線が向けられる 「―――っ」 仕方ない、契約内容を思い出させようと口を開いた時、絶妙のタイミングで声が割り込んできた 「アレはセントラの遺産などではないでおじゃるよ」 独特の口調に、顔を見なくてもそれが誰なのかは解る 「………あなたは」 雑誌か何かで知っていたんだろう、ホーキスが驚いた様にオダインの名を呟く 「あんなもの、残して置いてもろくな事がないでおじゃる、モンスターともども吹き飛ばして仕舞えば良いのでおじゃる」 オダインの物言いに、一瞬絶句するのが解った “月の涙”モンスターを引き寄せる装置 それから、ホーキスはまた同じように、あの気持ちの悪い現象を体感していない人間だからこそ言える言葉を連ねる 「うるさいのでおじゃる」 不機嫌にオダインが言い捨てる 「何も知らないくせに偉そうに言う権利はないのでおじゃる」 ………言っている事は正論だが、あのオダインが言っているのはどこかおかしい スコールの隣でゼルもおかしな顔をしている 「何も知らないなどっ、では貴方は何を知っていると言うのですか」 言い合いに発展した二人の後ろでキロスが天仰ぐ様が見えた 「いろいろと知っているでおじゃる」 「だから何を知っているっていうんですか」 「アレはセントラで作られたモノではないでおじゃる」 ゼルが驚きの声を上げるのが聞こえる そして、キロスがゆっくりと首を振る姿が見える ………やっぱりな スコールは声にならない呟きを零す 少し考えてみれば解る事なんだ セントラは“月の涙”で滅んだ ルナティックパンドラは“月の涙”を操る事の出来る装置 そんなモノを作る事ができたのなら、セントラは“月の涙”が原因で滅んだりはしない 「あんなもの、セントラが作る筈がないのでおじゃる」 ものすごい勢いでまくし立てるオダインの言葉は、概ねスコールが思っていた事と同じだ それと 「だいたい“月の石”で作られたモノがセントラ製であるはずがないのでおじゃる」 指を突きつける様にして、言葉を言い放つ “月の石” 勢いに押されていた依頼人が、ゆっくりと瞬きをする 「月の石?」 問いかけの言葉はスコールが問いたかったモノと同じだ 「―――あんたたちが“セントラ鉱石”って呼んでるやつの事だよ」 不意に聞こえた声に、全員が勢いよく振り返る どこか疲れた顔をしてラグナが立っていた |