英雄とパンドラ
(戦闘 SideS)
装置を破壊する音が響いてくる
次第に大きく激しくなっていく音
怪しい場所として指し示された壁の正面に立って、ラグナがのんきな言葉を吐いている
どんな相手が出てくるか解らない
緊張するはずの状況にも関わらず、いつも通りのいい加減な態度
………いつもの事だ
気にする必要も無い
気にするだけ無駄だ
揺らいでいた足元が静かに止まる
「そろそろ来るはずだ」
“人形”―――フィーニャと名乗った―――から示された壁の向こうから何かが立てる音が聞こえる
小さな音と共に金属がぶつかる音が聞こえる
金属音
中に潜んでいる“敵”が金属製だという印だろうか?
スコールは手にしたガンブレードへと視線を向ける
おかしな金属が使われていなければいい
ガンブレードの刃が弾かれる様な、そんな特殊な金属
手にした武器に問題があるとすれば戦いは随分不利になる
「油断するなよ」
そういった事を気にする様子も無いラグナへと一声かける
「おう、そっちもな」
気軽に返された言葉に、スコールは眉を寄せる
油断しないつもりなら、せめて正面に立つのは止めろ
怒鳴りつけるよりも早く壁に穴が開いた
金属音が響く
機械で造られた“敵”はセントラの技術がふんだんに使われているのか、おかしな動きを見せる
ガンブレードの刃に触れた機械が、攻撃を避ける様に2つに分裂する
苛立ちに任せて一方を攻撃すれば、刃が切り裂いた所を除いて、新しい機械として動き出す
幾体にも分裂しながら、次の一瞬には再び1つの機械へと戻る
細かく変わるソレは“敵”が何体いるのか判断が付かない
分かれたままではなく、いちいち1つに戻る所からすれば本体は一つだけの筈だ
「部屋の中の様子はのぞけねーか?」
分裂した機械の一方を受け止めながらラグナが聞いてくる
残りの一方をガンブレードの刃が捕らえる
「出来るならやっている」
長い間機械が収まっていたらしい空間
そこの中身は確かに気になるが、そもそもそんな事は戦いが終わった後で構わない筈だ
際限なく分裂する姿にいらだちが募る
今はこのうっとうしい敵に専念しろ
「スコール、アレ呼んでくれっ」
苛立ちをラグナへぶつけようとしたタイミングで、声が掛かる
G.F.の召還
確かに広範囲を攻撃する事の出来るG.F.なら、分裂した機械もある程度纏めて攻撃する事ができる
「呼び出すのに時間がかかる」
G.F.を呼び出すためには、精神を集中させなければならない
その間は戦う事は当然出来ない
「ならその分俺が引き受けるからどうにかしてくれ」
スコールの前方に回り込むように位置し、ラグナが剣に左手を添える
「………解った」
スコールはG.F.を呼びだす為の体勢を取る
「………良し、来な」
ラグナの声を耳にしながら、スコールは深く深呼吸し、目を閉じる
心の中でG.F.へと呼びかける
呼んだ声に答える幾つかの気配
返答を返したG.F.へと慎重に意識を向ける
して欲しいこと
貸して欲しい力
機械を破壊する為の攻撃の力
スコールが浮かべるイメージに従い、返答するG.F.の数が減っていく
スコールの呼びかけに応じる気がある者
スコールが求める力を持つ者
―――力を貸して欲しい
一体のG.F.へ向けた言葉に、軽やかな笑い声が返る
G.F.の姿がはっきりと映し出される
異界からG.F.が向かってくる
頭の中に浮かぶ言葉をそのまま声にする
世界を繋ぐ言葉、G.F.を呼び出す言葉
ゆっくりと開いた目に、機械と対峙するラグナの背中が見える
スコールの口からG.F.を呼び出す言葉が流れ出る
何処かにあるG.F.の世界がつながる
空間の割れ目からG.F.が姿を現す
スコールは“敵”を伝える
視線の先で、機械へ向けてラグナが炎をまとった剣を振るう
炎が機械をなぶるのとほぼ同時にG.F.が機械へ向かう
G.F.が上げる咆吼に重なって、辺りに金属が崩れる轟音が鳴り響く
G.F.が通り過ぎた先、機械が隠されていた部屋が崩れ落ちている
前方に転がり落ちた機械は分裂する様子も動き出す様子も無い
スコールは機械を覗き込んでいるラグナを避けて隠し部屋へと足を向ける
「………もっと早くG.F.呼んでれば良かったかもな」
G.F.の一撃であっけなく片がついた状況に感心するかの様にラグナが呟いている
「それで済むのならな」
G.F.の攻撃だけでは上手く倒せない状況も良くあることだ
スコールは大きく穴の空いた隠し部屋へと足を踏み込んだ
次へ その頃のラグナ
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