英雄とパンドラ
(後継者 SideL)
ルナティックパンドラ内に響いた轟音は、外にも聞こえたらしい
手強いヤツがいたものだから
というラグナの言葉にウォードは肩を竦め
キロスは黙って背後を指さした
つられて見た先に立っていたのは、青ざめた顔をした“学者”の姿
「ああ………」
面倒なコトになると言う合図なのか
面倒なコトになったという警告なのか
どうやら協力する気のないらしい2人から離れて、ラグナはそちらに向かって足を運んだ
監視所の一室
ラグナはホーキスと二人きりで向かい合っていた
質問があります、と固い声で告げられたのはつい先刻の事
ラグナの視界に入ったオダインが、無言で大きく頷いて見せた
どういう意味の頷きなのかいまいち解らなかったが
少なくとも“エスタ”に対して不利益にはならないってことだろうと解釈して、この部屋まで案内した
「それで、聞きたい事ってのは何だ?」
強ばった表情をした相手にラグナは明るく問いかける
この状況下で聞きたい事っていえば、ルナティックパンドラの事だろうな
あんま面倒な事じゃ無ければいいんだけどな
「聞きたいのは………………」
短くはない時間の末、ホーキスは漸く口を開いた
「古代セントラ、か」
エスタとセントラとの関係
そんなモノを聞かれる事になるとは思っても見なかった
エスタの人間は、誰もが知っている事実で、他国の奴等には誰にも語らない事
「そうだなぁ………」
長い間秘して来た事のどこまで話せば良いのか見当が付かない
そもそもどこから話せば良いのか解らない
………判断できない事は下手に語らない方が良いんだよな
隠す訳では無く、下手に言葉を重ねるよりも何も言わない方が良い
ルナティックパンドラの中身
新たに発見された遺跡
あの中には最近まで動いていた機械の残骸が残されている
様々な痕跡を辿っていけば、そのうち気が付く事かもしれないが、わざわざこっちから話してやるようなことじゃない
なら、話せる事は何がある?
聞きたがっているのは、エスタとセントラの関係
関係って言われれば、世間に知れ渡っていることは一つだろ
エスタはセントラの後継者であるということ
セントラ文明の技術を引き継いでいるということ
真実と嘘
そうだなぁ、その辺を話す事位なら差し支えは無いよな
ただの一般常識だ
エスタでは当たり前の、当たり前すぎて誰も口に出さないだけのことだ
「エスタはセントラの文化と歴史を受け持ち、ドールはセントラの暮らしを受け持った」
ラグナの言葉に質問者は驚いた様に目を瞬く
「ドールも、セントラの後継者なのですか?」
後継者、か
「………その言葉をどういう意味で使うのかってとこで意味が違いそうだけど、まぁそうだろうな」
“セントラ”という存在そのものを引き継いだというなら、そういう意味ならばどちらも後継者たり得ない
“セントラの意志”を継いだという意味ならば、エスタは正しく後継者だ
“セントラの人々”を引き受けた………人々が造り上げた国という意味ならばドールが後継者になる
「その違ってくる意味というのはいったい?」
引き継いだものの違い
そう言ったところで理解し、納得する事はできないだろうな
まぁ、納得させなくても構わないか
ドールには、セントラを示す物は残っていない
これは歴史学者の間で常識となっています
私自身もドールに足を運び、様々な方向から調べ上げた結果、その認識に間違いは無いと判断しました
エスタについて………
エスタにもまたセントラを示す手がかりが残っていない
つい最近まで、歴史学者達の間で言われていた言葉でした
エスタとドール、そのどちらもセントラの後継だと断言することは出来ないだろうと言うのが私達の認識でした
けれど、エスタからセントラの痕跡が見つかった
それも“遺跡”と呼ぶのに相応しくないほどの状態でした
完全な状態で残されていた遺跡は、不幸な事故で壊れてしまいましたけれど、それでも、古代セントラ文明を示す物が見つかったのは初めての事でしたから、エスタが後継者だという言葉は真実だったのだろうと、最近では私達はそう思っていました
ですが………
「ドールもセントラの後継者なのですか?」
呆然と呟いた言葉に、少し考える様にしながらも肯定する言葉が返ってきます
同じ“後継者”でありながら、その意味合いが違うのだと教えられた
セントラの後継者である“エスタ”はどこまで知っているというのでしょう
私は唾を飲みこみ、全身を耳にする思いで言葉を待つ
「エスタの建国がいつか知っているか?」
突然の問いかけに私は目を瞬き、記憶の何処かにあった年数を告げる
「………なら、古代セントラがいつ滅んだのか知ってるか?」
セントラが滅んだ時期
民間で言われている年代
それと、真実文明が滅んだと思われる年代にはとても大きな差がある事は、私達歴史学者の間では常識となっている
私は当然、私達学者の間で予測されている年代を告げる
「エスタの建国はそれよりも古い、ドールはそれ以降だけどな」
さらりと告げられた言葉にゆっくりと理解が広がります
「それは、つまり………」
エスタはセントラが存在しているその時から在ったということと思って良いのでしょうか?
きっと、私は困惑した表情をしていたのでしょう
「エスタはセントラから分かれて生まれた国ってことなんだろうな」
私の言葉を待たずに、結論を告げられる
その言葉が事実であるならば、エスタは厳密に後継者だと言うことは出来ない
同時代に存在した国だと言うなら、関係はガルバディアとエスタの様な………?
「………資料は、エスタにはセントラの資料が残っていないのですか?」
エスタの事は解っていない事が多いとはいえ、ガルバディアにも幾つかの資料が存在している
同時代にあったという国ならば、エスタに対するガルバディアと同じように、セントラに対する資料が残されているかもしれない
「………そういうものがあるって聞いたことが無いな」
それでも、もしかしたらどこかに残されているかもしれない
「長い年月の間エスタにもいろいろあっただろうし、“魔女”が様々なモノを破壊したらしいからな」
その言葉はどこか、投げやりに聞こえる
「ですが、それでも………」
“魔女”が廃棄したものの中にセントラの資料は含まれてはいないかもしれないでしょう
もしかしたら、何処からか何かを見つける事ができる可能性が残されている様に思える
何もかも見透かすような強い視線が向けられている
今まで訪れた数々の国の事を考えても、残された資料を探し出したいと願ったところで部外者の手に触れさせる事はあり得ないでしょう
どうすれば、資料の存在を確認する事が出来るだろうか?
考え込む私の耳に声が飛び込んできた
「なぁ、なんでそんなにセントラにこだわるんだ?」
変わらず強い視線が私を見つめている
「私は―――」
言葉がこぼれ落ちていく
誰かに語ったきっかけ、誰にも話したことの無い思い
全てを語り終えた後、私は一つの言葉と提案を受けた
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