英雄とパンドラ
(後継者 SideS)


 
「少し話がしたい」
そう伝えてフィーニャを外へと連れ出した
遠く兵士達が見える場所で足を止める
数時間前に見た時よりも更にぼろぼろになったルナティックパンドラも見える
「それで、話とはなんでしょうか?」
知らなければ“人”にしか見えない仕草と表情でフィーニャが問いかける
「幾つか知りたい事がある」
「………はい」
セントラ時代に作られた機械
目の前に居るのは人の形をした、人間そっくりな人形
「ルナティックパンドラの事とセントラの事だ」
それと、オダインの話では分かり難い“月”に関する事
スコールの問いかけにフィーニャは少し迷うそぶりを見せる
「話すことには異存は在りません、ですが、話して良い物か判断が付きかねる事項が含まれる可能性があります」
無機質な筈の声に困ったような感情を感じる
「話せる範囲で良い」
「そう、ですね………」
フィーニャが微かに首を傾げて考える様な仕草を取る
「解りました、ですが質問された事柄に関しましては何が言えない事なのかも秘させていただきます」
そこまで徹底的に隠さなければならない事なのか?
じっとスコールを見つめる視線
「解った、隠した事は聞かない」
もしそれが必要そうな事ならラグナに聞けばいい
「それではお話しします」
質問を促す声に、スコールはまず始めにするべき質問を考えた

スコールの質問に淡々とした返答が返される
答えを口にするフィーニャからは、あったと思った感情は感じられない
まるでガーデンで端末を操作している時と変わらない印象
質問事項や、検索事項がただ映し出される様な無機質な感覚
こっちが質問の内容や、表現を間違えれば、正しい答えは返らない
たぶんこれが、答えられない質問を回避する為に取った手段
フィーニャは人とは違って、質問した内容に対して動揺や困惑も現さない
真実を読み取るには分の悪い相手
語られる言葉、語られない言葉を繋ぎ合わせて、スコールは真実を読み解く
ルナティックパンドラはセントラが作ったモノではないということ
“月の石”はこの地上のどこにも存在しない鉱物だということ
ルナティックパンドラは月がもたらした厄災
セントラ鉱石―――“月の石”を使ったセントラの時代の遺跡
少しずつ引き出す情報
遠回りの確認
モンスターの研究を行っていた施設
モンスターを排除する為の行為
何者かから身を隠すための施設
月の涙を呼び寄せる装置
月から訪れるモンスター
そして、知ってしまったこと
………知らずにいるだろう事
セントラの地に蔓延るモンスター
生まれ落ちるモンスターの姿
「セントラを滅ぼしたのは、モンスターか?」
「月から襲来した大量のモンスターが原因であると、記録されています」
「セントラに未だに人が住むことができないのも、モンスターの仕業か?」
「………現在の状況は解りかねます」
よどみなく答えていたフィーニャの答えに僅かな沈黙が生まれる
「モンスターの襲撃が終わった直後のセントラの様子は?」
「機能停止中につき、把握しておりません」
「………エスタは、セントラの代わりに存在するのか?」
「いいえ、エスタはエスタ、セントラに代わることは不可能です」
「………エスタはセントラの後継者じゃないのか?」
「後継者という言葉が的確かどうかは判断しかねますが、エスタがセントラを引き継いでいるという事であるならば、それは正しい解釈です」
監視所の方から、呼び声が聞こえる
「ああ、迎えが来たようですね」
「待て、エスタはセントラとどういう関係なんだ」
スコールへと背を向けフィーニャが歩き出す
「質問の時間は終わりました、………ですが最後に一つだけ………」
フィーニャは変わらない歩調で歩き去っていく
「エスタは、セントラが存在している時分に建国されました」
それは既に知っている事実
何か、関係があるのか?
考え始めたスコールの元に、声が近づいてきた
 

 
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