(残されたモノ SideS)
「はー、すげーな」 それほど広くはない建物の中には様々な機械や資料がそのまま残されていた 感嘆の声を上げるゼルを押しのけて、フィーニャは手近な機械を覗き込む 「………生きているな」 「ええそうね、セントラ時代のものでは無いという話だけれど………」 これは凄い発見、か? キスティスの言葉にこっそりと肩を竦める 貴重な資料、貴重なデータ セントラ時代ではないとはいえ、セントラに近い時代のものだ、学者達は舌舐めずりをして喜ぶだろう 彼等の目に触れる事が在れば、だが フィーニャの手が機械を撫でる様に操作している 「少し離れて貰えますか?」 興味津々に手元を覗いていたゼルが迷惑そうに追い払われる 時折首を傾げる姿は、この機械に不慣れな印象を覗かせる もしかしたら本当に不慣れなのかもしれないが、その可能性は低い 良く手元を観察していれば、戸惑う様な手の迷いは感じない ただ時折思った反応が返って来ないのか、反応が薄いのか、手が戸惑う様に同じ操作を繰り返す ほら、な 「それで、どうなのかしら?」 「ええ、既に主たる機械は稼働している様です」 フィーニャの言葉に、二人が同時に周囲を伺う 辺りからは生き物の気配はしない 「侵入者の形跡は無かった筈だ」 「ええ、直接こちらを操作した訳ではなく、何処かと連動している、のだと思います」 確認してみろって事なんだろう、フィーニャがさりげなく機械の前からどく 灯りの中浮かび上がっているのは、床や機械の上に溜まった埃 機械には彼女が触れた場所のみがくっきりと浮かび上がり、床の上の足跡も他の人物のものは残されていない 「あー、そっか」 辺りの状況にゼルが納得した声を上げる 「でも、連動しているって事は、何処かにここと対になる場所があるという事なのかしら?」 キスティスの視線が問いかける 「私は、その様な存在の事は聞いてはいませんが………」 戸惑った様な顔で呟く彼女の表情には動揺した様子は見えない ―――見える筈がない 「………そう」 じっとその表情を見つめていたキスティスが、小さなため息を吐く 納得は出来てはいない、そう言った表情 「キスティス―――」 スコールはキスティスの側へと足を踏み出す 小声でほんの一言 ―――確認してきてくれ 多分聞こえて居るんだろう、音 キスティスの視線が背後へと微かに動く 「少し、辺りの様子を見てくるわ」 スコールへと断りを入れてキスティスが歩き出す 「………ゼル」 「ああ、気をつけろよ」 二人の足音が遠ざかっていく 他の部屋に移動したのだろう、気配が薄くなる ゆっくりとフィーニャへと視線を移せば、スコールを見つめていたんだろう視線とぶつかる 「ご協力を感謝します」 感情の籠もらない言葉が継げる 「協力?」 したつもりは無い、と続ける筈の言葉は喉の奥に引っかかる 「少し迂闊でした」 視線は既にスコールへと向けられてはいない 「いえ、こうである可能性も解っていたのかもしれませんが………」 独り言を呟きながら、なめらかに手が動き出す 小さく信号音が鳴る 備え付けられた数々の機械に光が灯る 正面の壁から、淡い光が放たれる 「これでは見えませんね」 伸ばされた手が壁を拭う その時を待っていたかの様に、壁面を流れる文字 エスタ………いや、セントラの文字 見覚えのあるエスタの文字と良く似た、それでいて違う言葉 彼女ならば読むのには支障は無いだろう 流れるように現れていた文字が止まる 視線がスコールを招く 「ここを開けるには“鍵”が必要でした」 手がスコールの手を捕まえる 目の前に現れるのは掌の形にくぼんだ台 「ですから、ココを引き出すにも“鍵”が必要です」 スコールの手が台の上へと乗せられる 掌を光がなぞる ジッと、テープが動き出す様な音が聞こえる 「登録します」 無機質な声が響く 「彼の名前はスコールです」 間髪入れずにフィーニャが答える 「登録を完了しました」 強く光が灯る 「契約に基づき、全システムを復旧させます」 なめらかに機械が動き出す それと同時に、慌ただしい足音が二つ近づいてくる 「何があったのっ?」 大声と共に飛び込んで来たのはキスティス、その後ろからゼルがこちらを覗き込む 「………減点だな」 SeeDの行動としては失格だ 「機械が正常に動き出しただけです」 一瞬のうちに表示されては消えていく映像 表示されているのは、彼女が情報を読み取るのに必要な時間 「………これ、どっかに流れてんじゃねーか?」 「ええ、対となる場所へと送られている様です」 「それは不味いんじゃないかしら?」 騒ぎ立てる2人を気に留める様子も無く、フィーニャはただ黙って画面を見つめている 問いかけの視線に、スコールはただ首をふる どんなつもりなのか、なんて聞かれても解らない 表示が止まる 「もう一カ所に赴けば良いだけの事です」 表示されて居るのは、今のものとは少し違う世界地図 赤い光が示しているのはガルバディア 覚えのある場所に、スコールが眉をひそめる 「データの送り先の様ですね」 少し困ったようにスコールを見るのは“知っているから”だ 「今度はあそこに行けば良いって訳か」 今にも駆け出しそうな様子でゼルが言う 「ええ………」 突然目の前の映像が切り替わる 不鮮明な映像の先に映し出されたのは 「………ラグナさん?」 画面の向こうでラグナが驚いたように目を見張る 「この場合は、丁度良いと言うべきでしょうか?」 小さな声が戸惑っている様に聞こえた |