これから望まれる技術者像


 山形県はこのままではじり貧の県になってしまう心配があります。
 観光があるじゃないかという方もおりますがそれは現実をみていません。
 現在、東京で”蔵王”というと宮城県の南蔵王地区をさすのです。
 冬もしかりでスキーも南蔵王になっています。それは交通の便とホテル等の環境です。
 夏は圧倒的に南蔵王の不忘山から屏風、刈田と連なる山脈の東側に展開する
広大な高原エリアが全て観光スポットになり、膨大な投資が行われ、若者であふれています。
 一方、山形蔵王を見てみると寂しい限りです。蔵王温泉は侘びしい雰囲気で何か雑然とした
感じです。若者が来ないのは当然なのでしょう。
 このような現状下でこれから山形が観光に力を入れても手遅れだし、それよりなにより観光振興に
対する展望と熱意を持った人は山形には皆無なのです。やはり山形は、狭いエリアでの資本の
必要の無い、細々とした観光で稼ぐしかありません。
 一例が「蕎麦」です。確かに蕎麦は日本一です。
 しかし、いくら蕎麦屋が繁盛しても多くの人間を雇用出来る規模にはなりません。
 県として県民を豊かに生活させていくためには産業に頼らざるを得ません。
 しかし、これまでの産業体制は大変革をしています。産業を盛んにしていくと言っても簡単では
ありません。まず産業に携わる人が変革していかなければならないと思います。

 以上の観点からこれからの技術者はどのような姿であるべきかを見つめてみます。

 (1)技術者という範囲
  これからの産業に従事する人は、全員が技術者という意識を持つ必要があります。
  今までの単純労働ということは激減します。全ての仕事を自分で決定し、その内容を熟知し、
 工夫とトラブルに対して的確な判断が自分で出来なければならないでしょう。 
     そのような技術者で労働界が溢れて来たときに始めて産業基盤の確立となります。 
   厳しい意見かもしれませんが、その位に現状は厳しいのです。

  (2)これからの産業界
  どうしても大量生産の場は中国近辺にならざるを得ません。これは本宅の室にある産業編を
 読んでいただくと分かると思います。
  現在日本の産業を引っ張っている自動車製造も残念ながら海外中心になります。
   この時に、どの位の工場が日本に残るのかが鍵となります。岩手のトヨタマークUの工場は
残るのでしょうか。スズキの工場は? 等々考えられる心配は次々と出てきます。
  山形県の産業界は多くが自動車産業に付随しています。大きな関心を持っていく必要があります。
 従って今後考えられる産業分野は次の方向に向いていくでしょう。

 @日常生活を安定に維持するためのインフラを支える分野
 A海外での生産を支える製造装置の試作や治具、検査装置製作等の分野
 B高い水準のハイテク品の独自生産分野

 
 今後はこれらのいずれかに属するものしか生き残ることが出来ないと考えられます。

 @の分野は人間が生活するうえで必要な橋の架設や電力生産、側溝工事等になりますが、
   必然的に小さなパイを多くの企業が食い合うこととなり大きな期待は出来ません。これで県民全体を
   食べさせていくことは不可能です。
 Bは相当に厳しい分野です。しかし最も望ましい分野です。これには全従業員の真摯な発想と工夫が
   必要になります。しかしやってやれないことではなく、山形の企業はやれる下地はあると思います。
 A現状の発展継続の形で進められるのがAの分野です。
   しかし、この分野は独立して存在することは出来ず、必ずリードする企業が存在し、その企業を
  取り巻く形での存在形態となります。しかし、これまでの単純下請けとは微妙に異なります。
  上下の関係ではなく、中世のミケランジェロの制作工房のような形態に近いと思います。
  このような工房的企業での従業員は一人一人が戦力にならねばなりません。
  ボーッとしている人ではつとまらないことになります。
  そしてまた、経営者も常に方向性を的確に掴み、社員をリードしていく指導力が求められて
   いきます。 単に名声や家柄だけでは保たないこととなり、経営側にとっても厳しい時代となる
  に違いありません。

 技術者像 
 
 さて、肝心の技術者像ですが私が勤めている業界や教え子たちの姿、企業情報等を参考にすると
 次のようなことが必要と考えられます。
 @ 自分の得意な専門分野を持っているか。
 A その専門分野が何よりも好きであるか。
 B ものを作ったり、目的を果たすことに喜びを感じられる性格であるか


 以上の3点をクリアー出来る人だけが技術者として生き残れると思います。
 あのNHKのプロジェクトXの世界が理解できる人とも言えます。
 逆にいえば持っていない人が技術者になれば不幸であると言えます。

 技術の現状 

   県内企業の全てが暇かというとそうではなく、忙しい企業はとてつもなく忙しいのです。
   私の所属している当社も仕事に追いかけられているという状態です。
   じっと見てみると、ただ漫然と一つのことを続けていた会社は衰退し、常に工夫し、
 新しい発注先への対応に努めていた会社は仕事に追われているという状態です。
   ニットやメリヤス関係も早期にコンピュータ編機を導入し、他品種の短期間納入を実現していた
 企業には注文が殺到しているのです。他の企業が今からコンピュータ編機を導入したとて、
 有効に活用するには時間が足りません。とても間に合いません。
   現在仕事に恵まれている企業を見てみると、

 @多品種少量生産にすなおに対応している。
 A工夫や創造が必要な分野である。
 B社員一人一人が前述した技術者である。
 C社長自らが真摯なリーダーである。
 D社屋よりも製造必需品に金をかけている


 現在の山形の製造業において、マシニングセンターやCAD設計者の優秀な人材が少なく、
  他県から呼び寄せて仕事をしてもらっているのが現状です。
 大学を出たからといって、即マシニングで複雑な部品を作れるわけはなく、また、電子回路と
 配線技法の両方が分かり、CADで基板設計が出来る技術者になれるわけがありません。
 従前は、先輩社員が若手社員をじっくりと育てたのですが、段々と余裕のない県内企業では
 人材が育たなくなってしまったのです。
 そのような中で、的確に若手を育成した企業が勝ち残っていると言えます。
 
 私も周囲をじっくりと見てみるとCADを自由に操り、製品開発に役立られる人材が少ないと感じ
 ています。CADを的確に操作できなければ(シミュレーション操作も含む)これからの製品製造は出来
 ないのですが。
 
 故に次のことが言えます。

 試作・動作確認も全てCADでやる時代である。CADのスーパーオペレーターは失業の心配は無い

 このことは一例で、本当に一つの機器操作をハイレベル段階までマスターした人は料理人のように”包丁一本
 さらしに巻いて”の気分で世の中を渡っていけます。(ただし本当にハイレベルの段階においてですよ)

 結論 世の中全てが滅びたのではない。活躍している会社も多くある。人材確保の先行投資が大切な
     時代である。
現状の満足と現状継続は滅びに直結する

 残念なこと
     ある会社のリーダーと話し合った。リーダーは嘆いていた。「おかげで当社は忙しい。何年も前からの
     技術開発に努力した結果が実を結んでいるのだ。更に、顧客の注文に絶対に遅れない努力が信用を
     得たのだ。しかし、現在、若手や女子の社員からは 今順調でないか。何故あくせく働く必要があるのか。
     残業までして納期を守る必要は無い と言われてがっかりしている」との嘆きを聞かされた。

     県内企業にはこのような気分の会社が少なくはない。 どうか日夜努力していただき、発展していただき
     たいと念じています。


 戻る(当室先頭に)

 戻る(ホームページ全体のトップへ)