英雄と遺産
(作戦)


 
軍船の小さな会議室にゼル達は案内されて来た
「来たな」
中央のテーブルの上に置かれた地図を覗き込んでいた、ラグナが小さく呟く
何か言おうとしたらしいスコールを手を挙げて制止する
「それでは」
小気味良い言葉を残して案内してきた兵士が歩き去る
兵士が完全に立ち去るだけの時間が過ぎる
「じゃあ始めようか?」
軽い口調で、ラグナは自分の近くへと手招きで呼び寄せる
室内には、ラグナの他にキロスとウォードしかいない
あれ?他の連中はどうしたんだ?
「……作戦会議と聞いたが?」
同じ疑問を抱いたらしいスコールが聞く
「そのつもりだぜ?」
あっさりとしたラグナの言葉
そのつもりって……
ゼルは内心首を傾げながらも納得した様なスコール達に従って席についた
「じゃあ、簡単にいくぞ」
「簡単にということだから、私から説明しよう」
当たり前の様にキロスがそう言い、ラグナが押しのける
「まずは位置関係だか……」
キロスが目の前に置かれた地図を指し示す
キロスの後ろから、「そりゃないんじゃないか?」というぼやきが聞こえたが、気にも止めずに言葉が続けられる
「知っての通り現在地はこの海上になる、そして、敵の居場所はこちらだ」
程近いセントラ大陸を指し示す
海上からは、絶壁に成っていて上陸する事は出来そうになかったが、海中に湖へと続く洞窟が開けている、らしい
確認するようにキロスは、俺達を見る
「間違いないぜ」
先に探りに行って相手がいる事を確認した俺は当然その言葉を保証する
「まずは絶対の条件として、この地に潜む海賊を一人も残すことなく捕まえなければならない」
だな、逃がしたりすると後々面倒な事になるもんな
「さて、そこで問題になるのは、敵がこちらよりもはるかに優れた乗り物を所持しているということだ」
……船底をスッパリ切り落とせる潜水艇だもんな、ちょっと普通の船で相手にするのはやっかいだな
「そこで、敵にこちらの動きを気づかれる事の無いよう、作戦は最低限の人数で行う事にした」
もしかして、だからこのメンバーなのか?
「上陸は、万が一にも気づかれる事が無いよう、この位置から行う」
口元に笑みを浮かべて、キロスが地図指し示す
上陸ポイントは大陸の反対側、目的の地点からは確かに気づかれる事は無さそうだ
「近くまで車で移動後、潜水艇の所在を確認の上で作戦を開始する」
あんまり近くまで行くと見つかるもんな
「で、具体的にはどうすれば良いんだ?」
いつもならスコールが言う言葉をサイファーが言った
……なんかこいつ楽しそうじゃないか?
サイファーの様子にゼルはなんとなくいやな感じを受ける
「とりあえず、問題の遺跡へは2方向から、進入する事になる」
2方向?挟み撃ちって訳か
「同時に潜水艇の制圧」
3つに分かれるのか……
「誰がどこに向かう?」
スコール?
そんなことは俺達が相談して決めれば良いんじゃないか?
ゼルは驚きに満ちた目でスコールを見た
「ちょっと、スコール……」
「それなんだけどな」
たしなめようとしたキスティスの声にかさなるようにして、ラグナが発言した
ラグナは、彼等の視線にちょっと困ったような笑みを浮かべる
「スコール、悪いんだけど、厳しい方行ってくれるか?」
両手を顔の前で併せて、拝むようにして頼み込んでる
……はぁ?
状況がよく把握出来ずにゼルは戸惑いながら、辺りを見渡す
キスティスもゼルと同じように何がなんだか解らないという顔をしている
サイファーは、不機嫌そうな顔をしている
……スコールもきっと機嫌悪いよな……
「解った」
伺い見たスコールの様子は予想に反して、淡々としている
あ、あれ?
「じゃあ、スコールとキスティスは、海岸方面から遺跡へ進入してくれ」
ゼルは自分と同じようにスコールを見ていたキスティスと目が合った
なんかおかしくねーか?
視線での問いかけにキスティスも肯定の合図を返す
「潜水艇の方は、サイファーとゼルに頼む」
へ?
「もしもの場合の為にウォードはこっちに残っていてくれ」
了解したというようにウォードが頷いている、が…
「おい、反対側からは誰が行くんだ」
サイファーの言葉にラグナは、何を言われているか解らないといった顔をする
「ラグナとキロスだ」
代わりに答えたのは、スコール
ゼル達の視線を集めながら、スコールは涼しい顔をして、先を促している
……ちょっと待ってくれよ………
「ちょって待って下さい」
ゼルの思いを代弁するかの様なキスティスの言葉
「作戦に参加するということですか?」
だよな、いくらなんでも危険な事に大統領が行くってのは………
「問題無い」
……スコール?
今日のお前、絶対おかしいぞ?
素人が付いてくるのいつもなら嫌がるじゃないか
「心配してくれるのはうれしいけどさ、心配される程弱くないぞ?」
苦笑しながらのラグナの言葉
弱くないったってよ……
「てめーら、相手の強さも見極められないのか?」
間近の声に驚いてサイファーを見る
へ?
「じゃあ、細かいところは移動しながらって事で良いか?」
ラグナは嬉しそうに笑いながら言う、それに対してスコールとサイファーがすぐに同意した
お前ら2人でおかしくないか?
「サイファー、ちょっと来てくれるか?」
ゼルが追い立てられるように部屋から出ようとしたその時、ラグナがサイファーを呼び止めた
呼ばれたサイファーは、文句も言わずむしろ嬉々として戻っていく
「……なんかさ、サイファー、嬉しそうじゃないか?」
命令なんかされたら怒るのによ
なんか、おとなしかったし……
部屋の中を覗くと、真剣な顔で話をしているのが見える
「憧れの人が相手だからじゃないの?」
魔女の騎士、かぁ?
言われてみればそうだったな
「ところでゼル、あなたは行かなくても良いの?」
何のことか解らずにゼルはキスティスを見る
「……あなた、サイファーと一緒の組でしょ?」
キスティスの言葉に一瞬ゼルの頭の中が真っ白になる
うそだろ!?
自分のおかれた状況を把握すると、ゼルは呆然と立ち尽くしていた
 
 
 
ラグナサイドへ スコールサイドへ