英雄と遺産
(遺産 SideL)


 
倒壊した廃屋
陥没した、石畳
荒れ果てた廃墟の中を、ラグナは慎重に歩いていく
身を包む緊張感
時々遠くから、微かな声が聞こえる
また1人……
静かに倒された海賊の数を数える
あと、どれくらいいるんだろうな?
目の前を倒壊した建物が遮る
迂回しようとしたラグナの耳に、壁の向こうから、微かな音が聞こえた
聞き逃す程の小さな機械音
視線を走らせたラグナの目に、街の明かりが映る
……まだ、生きてるって事か……
廃墟と化した街、この場所が見捨てられたのは、百年以上も前の事なのに、まだ動作している、システムがある
「………まいったな……」
まさか、自分が言った言葉が現実のものになるとは思ってもいなかった
ラグナは、いつでも抜ける様に剣を持ち直し、歩を進める
壁の向こうの気配は、ラグナと同じ早さで移動している
先の方に壁の切れ目が見える
ラグナは、足を止める
向こう側の気配は止まらない
……思考能力もあるみたいだな……
姿を現す直前、ラグナは駆け出した
機械仕掛けの鋼鉄の人形、侵入者の排除の為に造られたであろうそれは、前方にマシンガンを備え付けていた
引き金が引かれる
軽い連射音が辺りに響くと同時に、背後から切り裂かれたそれは、体を二分し火花を上げて倒れた
「海賊よりも遺産に気を付けろ、か……」
残骸と成った機械が、火花を散らし動きを止める
「まさか、本当にそうなるとはな」
可能性は低いと思ってたんだけどな……
機械が動作を止めるのを確認して、ラグナは、壁の内側に入り込む
ほぼ完全な形のまま残った建物
周囲に張り巡らされた壁
唯一残された建物、唯一残されたエネルギー
そして、人に反応して動き出した防犯システム
重要施設ってやつか?
ラグナは、慎重に建物の内部へと入っていく

錆び付いた扉を剣で両断する
音を立てて崩れると同時に作動するトラップ
身を隠したラグナの目の前で、扉の残骸が粉々に砕け散る
「………こんなことなら、銃器類を持ってくるべきだったよな」
広い上げた金属の破片をラグナは、部屋の中へと投げつけた
破壊される金属音
ラグナは耳をそばだて、中の様子を伺う
微かな機械音が次第に小さくなり、不意に途切れる
「早いとこどうにかしないとな」
予想外に広い施設内をラグナは、足早に歩く
流石に迷いそうだな……
ところどころ壁が崩れ通路の形を変えている
分かれ道で立ち止まり、入り口に掲示されていた案内版を思い浮かべる
…………………
「まぁ、どうにかなるだろう」
狂わされた感覚にため息をついて、角を右に曲がる
!!
背後をなぎ払った剣は、小さな機械を両断する
火花を上げる落ちる機械の遙か後ろから、戦闘用らしいロボットが現れる
腕が上がる
ゆっくりした動きが構えを形作るよりも早くラグナは、相手を両断していた
崩れ落ちた体が鈍い音を立てて動く
未だ動こうとするその腕にラグナは、剣を突き刺した
堅い金属の感触、錆び付いたその機械を切っ先が切り裂いていく
動きが止まる
ラグナは、ゆっくりと剣を引き上げた
そろそろ刃こぼれでもおこしそうだ
特殊な金属を使った刃先、だが、切り裂く相手も特殊製品だ
まったく、やっかいな置きみやげだな……
ラグナは、戦闘用ロボットが現れた方向へと歩き始める
彼方から、硝煙の匂いが漂う
誰だ?
ラグナは、生きた人間の気配を探り、歩き出した
 
 
 

 
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