英雄と遺産
(暗示 SideL)


 
その部屋こそが、最重要施設である事は間違い無かった
何よりもその厳重な警備がソレを物語っていた
施設の心臓部
何よりもここをどうにかしなければならない
ラグナはスコールを見やり、微かな合図と共に、扉を粉砕し室内へと踏み込んだ
広い室内に機械仕掛けの兵士の姿が見える
……これも、セントラの遺産って訳か……
正面の奥に一際厳重に警備された機械が見える
あれか………
「……スコール……」
スコールが微かに頷いたのが解る
ラグナの口元に笑みが浮かぶ
二人は同時に室内へと踏み込んだ
襲ってきたのは圧倒的な光
ラグナは、光の中に意識を飲み込まれていた

「ラグナ」
柔らかな声が名前を呼んだ
「ラグナ、起きて……」
もう一度間近でラグナを呼ぶ声
眩しい程の光を感じる
「ラグナ!!」
悲痛な叫び
声は、深く馴染みのあるもので……
レイン!?
それが誰のものか認識した瞬間、ラグナの意識は覚醒した
ラグナの目の前で、レインは捕らえられていた
手足を捕らわれ、身動き取れぬよう縛り上げられた姿
「……ラグナ……」
弱い声
ラグナは、呆然とその様子見ている
信じられないという思い
そして、あまりの出来事に反応出来ない心
「レイン?」
呼びかけの声はあまりにも弱い
嘘だろう?
返事が返らないことを、これが真実では無いことをラグナは願う
声に反応して、レインがラグナを見る
二人の視線が合う
縋るような、視線
「ラグナ、助けて!」
悲鳴、助けを求める声
反射的に身体が動く
飛び出したとたん、身体が後ろに引かれる
身体にかかる強い衝撃、そして痛み
視線を落としたラグナの視界に、腕や足に絡まる荊が映る
身体に食い込むソレは、血を溢れさせ、ラグナがレインの元へ近づく事を許さない
「ラグナ、助けて……」
弱く腕を伸ばし、尚も助けを求められる
そして、一面の真紅
高く細い悲鳴が耳の奥で木霊する
細い吐息がラグナの名前を呼んだ
命が消えていく
ラグナは、わめき散らす自分の声を遠くで聞いた

無惨に引き裂かれた身体
気がつけばラグナは、レインを見下ろしていた
赤く血で染まった身体
惨劇の後
ラグナは、ただ見下ろしていた
「ラグナ」
聞こえてきたレインの声に視線を上げる
「何故私を助けてくれなかったの?」
暗い顔をした幽鬼が漂っている
レイン
乾いた唇が音にならない声を紡いだ
「私を守って………」
レインの姿がぼやけていく
足下の死体が消失する
目の前で、もう一度レインが捕らわれる
「ラグナ」
甘い呼び声に、ラグナは引き寄せられる様にレインの元へと近づく
魅惑の瞳と、蠱惑的な笑み
「私を守ってくれるでしょう?」
ゆっくりと、ラグナの腕が、レインを抱き締める
「私を守って…………」
腕に力がこもる
「……敵を殺して」
低い声が耳元で強く囁いた
レインの背が反り返る
「……ラグ………ナ………」
大きく見開かれた目
腕から抜け出したレインの背中にナイフが突き立てられている
「……何故……」
レインとは似ても似つかない声
「レインなら助けを求めたりしない……」
ラグナの声が静かに響く
ただ、助け出される事を待つだけなんてのはあり得ないんだ
「恨み言を吐いたりもしない」
幻覚が溶けるようにして消えていく
その代わりに叱りとばすんだ
柔らかな光
だから、まだ一度も会えない……
意識が浮上した

辺りを機械兵が取り囲んでいた
「用意周到なことで……」
口元に皮肉気な笑みが浮かぶ
礼はしないと、な……
剣を構え一歩踏み込んだラグナの背後から、強い殺気がわき上がる

剣圧が掠めていく
「……捕まったのか……」
ラグナは、敵意を見せるスコールを悲しげに見つめた
 
 

 
 
次へ スコールサイドへ