英雄と遺産
(暗示 SideS)


 
厳重な警備に守られた部屋が、この施設の防御の要となる場所であるのは間違いなかった
憎しみでも抱くかのように襲いくる機械たちを排除するには、どうしてもこの場所を攻略しなければならない
ラグナがスコールを見た
無言で交わされる微かな合図
ラグナは、合図を送ると同時に、扉を粉砕し中へと踏み込んだ
ラグナに続けて入室したスコールの目に、機械兵の姿が見えた
これがセントラの機械兵……
エスタの兵士は、この技術を応用したものだと聞いたことがある
奥まった場所に厳重に守られた機械
あれ、みたいだな………
「……スコール……」
ラグナの声にスコールは頷く
あれを壊せば良いんだろ?
同時に、奥に向かい踏み込む
突如スコールは、闇に包まれる
すべてを奪いさるような闇の中に意識が飲み込まれて行った

暗闇の中、スコールはただひとり存在していた
辺りを伺い見ても何も見えない
気配を探っても何も聞こえない
スコールは無意識に足を踏み出す
ここは、どこだ?
やがて、はるか前方に淡い光がともっている事に気づいた
微かなざわめき
聞き覚えのある複数の声
近づくにつれ、人々の姿が浮かび上がる
見知った人達、友人や仲間、そして家族……
側まで来ているのに誰もスコールに気づかない
「……あ…」
彼等はスコールを置いて行ってしまおうとする
呼び止める声が出ない
声を掛けれない
一人、スコールに気づきふりかえる
「君、誰?」
「あれ?スコールじゃないか」
「スコール?なんでここにいるの?」
「知らないよ、関係ないんじゃない?」
冷たい視線が投げ掛けられる
「邪魔なんだよ」
次々にスコールを否定する言葉が投げ掛けられる
足が後ろへ大きく下がった
スコールは気づかないままに、彼等から遠ざかろうとする
自分を否定する声
「違う、偽者は消えろっ」
スコールの悲鳴に彼等の姿は消失する
『どうして偽者だというの?』
聞いたことのない声が響き渡る
『あれはあの者達の本心なのに……』
「でたらめを言うなっ」
暗闇の中にスコールの声が響き渡る
『でたらめ?本当にそうかしら?』
静かな声
そして………
スコールは暗闇の中、ただ1人存在している
相手が変わり繰り返される出来事
何度も否定される
これが真実だと、繰り返される言葉
不意に子供の声が聞こえた
視線の先に子供の頃のエルオーネがいる
「おねーちゃん……」
スコールの呼びかけにエルオーネがふりかえる
スコールを見つめたその顔が強張る
「あなた、誰?」
後ずさりしていく身体
エルオーネの姿が、成長したものへと変わる
警戒した表情
「おねえ、ちゃん?」
顔を強張らせ、エルオーネが脅えたようにスコールを見る
スコールの身体は凍り付いたように動かない
「私に弟なんていない」
「何言って……」
さし伸ばした腕が振り払われる
「いやっ、近づかないで!」
恐怖に脅え逃げ出して行く背中が不意に消えた

暗闇の中で幾度も悪夢が繰り返される
淡く灯る光、誘うように揺れる光。それはすべて悪夢に転じていく
暗闇の中、スコールは空ろな目をして立っている
『可哀相に……』
空間に声が響いた
『お前は誰からも必要とされていないんだね』
空ろな瞳が宙へと向けられる
『私の元に来るかい?』
笑いを含んだ声
『私の役に立つのなら………』
囁きは甘く響く
スコールへと黒い腕が差し伸べられた
その腕にスコールの手が伸びる
スコールの意識は深い闇の中に飲まれて行った

倒しなさい
声が脳裏で響いた
スコールは、声に従い、剣を振りかざす
邪魔者はすべて排除しなさい!
強い口調に、スコールの内に殺意が芽生える
無防備なはずの相手に一撃を放つ
剣が空を切った
排除しなさい
脳裏で声が繰り返し告げた
 
 
 
 

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