英雄と泥棒
(訪問)


 
その日エスタにある工場の片隅で、ラグナとスコールは、多数の技術者と共に、設計図を囲んでいた
ガーデンから特注された移動用車両の設計
「絶対条件は、頑丈さと機動力だ」
スコールは、ガーデンの意向をなるべく正確に伝える為に此処にいる
どんな危険な任務を請け負うとも限らないSeeDが使うとなれば、丈夫である方が良いし、どんな場所へもいける方が急な目的地の変更があった場合に、なにかと便利だ
「装甲は、可能な範囲内で、一番耐久力の高い物を使うけどな」
ラグナの言葉を受け、技術者が、材料を書き込む
「……一番良い物にならないのか?」
「無理だ」
「………解った」
ラグナの否定の言葉にスコールはあっさりと引き下がる
他国に対して使用できる技術の制限、危険と思われる素材の使用制限、そして、開発段階の製品の出荷の防止
もしもの時の為に、注文の受付は、政府役人が行っている
普通はあり得ない事だが、自分の技術を誇るが故に決まりを破る事もある
「それで機動力の方は……」
ラグナは差し出された資料を見ながら、いくつかのパターンを上げる
時々ラグナが、意見を求める以外、側にいる人達は何も話さない
「もう少し性能を追加できないか?」
「資金力不足だな」
「なら、その分まで予算を追加する」
「………勝手に決めて良いのか?」
事務的な会話を交わしていたラグナが不意に問いかける
「大丈夫だ」
ラグナは、ガーデンって結構金持ってんだなと呟き、再び何事も無かったように事務的な話を始める
やがて……
「後はカラーリングだが……」
「それは車体ができあがったのを見た時点で指定する」
「解った」
できあがった発注書をラグナが、隣にいた技術者へと手渡した
人々の間から安堵のため息が漏れた

「ガーデンからの注文が一番面倒なんだそうだ」
作業に流れが見渡せる会場のラウンジで、打ち合わせから戻ってきたラグナはスコールへそう話しかけた
「こっちも同じだ」
うん?
「エスタへの発注は、嫌がる」
手続きが面倒だ
続けられた言葉にラグナは苦笑する
それでスコールが来たってわけか
スコールは、視線を逸らし、下の光景を見つめている
……結構損な性格してるよな……
スコールの視線を追うようになんとなく、ラグナも視線を移す
見学者らしい集団が歩いている
「あれはなんだ?」
「見学に来た観光客」
………ってだから睨むなよ
「根強い、反発への牽制なんだけどな……」
年老いた人々の中には、まだ以前の魔女戦争の時の記憶が色濃く残っている者も多い
見せても差し障りのない場所だけを観光客にも見学させて、危険が無い事を示している
小細工だけどな……
少し考えれば、重要な箇所を見せていない事に気が付く
そして、その事によって余計な疑いを掛けられる可能性もある
「危険は無いのか?」
「まだどっちとも言えないな」
もちろん、それなりの備えはしているけどな
警備員の姿が見え隠れしている
辺りを注意深く見ている者も居れば、つまらなそうに歩く者もいる
「どうせだから、見学していくか?」
珍しげに見ている子供の歓声が聞こえた
 

 
 
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