英雄と泥棒
(臨戦 SideL)


 
ラグナは秘密の通路から、工場の内部へと入り込んでいた
相変わらずシステムを落としたままの内部は暗く闇に閉ざされている
「この辺にはあいつらは入り込んでなかったよな?」
偶然が重なって工場内に入り込んだただの強盗
この辺りは破壊された様子もない
幾重にも重ねれた扉の奥、厳重に積み重ねられた防犯システム
ラグナがいる通路の奥から先こそが、この工場の重要施設になる
腕にまいた端末を操作しながらラグナは、足早に奥へと向かう
女性が向かった先は、開発段階の飛空艇が置いて在るはずだった
まさか、アレに気づく奴がいるとはな………
苦笑をもらしながら歩くラグナの周囲で徐々にシステムが復旧していく
ただし、これは重要区域のみに限定されたシステム
先ほどまで動いていたものとはまったく系統が違う
飛空艇が置いて在る開発室隣の実験場へ向かう通路の角を曲がり、ラグナは足を止めた
「本当の犯人はこっちだったみたいだな……」
通路を塞ぐように立っているのは、機械仕掛けの犬
研ぎ澄まされた鋭利な刃物の様な爪と牙、脅しを書ける様にうなる姿は……
「戦闘用みたいだな」
機械であるが故に痛みを感じる事もないだろう
そして、機械であるが故に、頑丈になっている
飼い主に気づかれるのはちょっとな……
低くうなりを上げる犬を見つめる
今はまだ牽制だが、おそらく一歩でも踏み込めば攻撃してくる
さて、どうするか……
不意にラグナは、背を向け道を引き返す
その瞬間、狙い澄ましたように犬は飛び掛かってきた
ラグナは、慌てる事なく振り向き、右手を振るった
一振のナイフがその頭を貫いた
火花が飛び散り、獲物を引き裂くはずのその身体は地に落ちた
破壊された頭部から、両断されて頭脳が見える
「便利っていえば便利かもな」
いくら頑丈でも、痛みを感じる事がなくても、身体の一部が欠けてしまっても問題ないとしても、
機械であるから、その唯一の司令部である頭脳を失ってしまえば動く事は二度とない
ただの鉄の固まりとなったそれの脇をラグナは悠然とすりぬけた
行き止まりには扉とガラスがはめ込まれた窓があった
窓から中の様子が垣間見える
仄かな灯かり
小さな光が金属に反射している
そして、その脇に一心不乱に作業する女性の姿が見えた
 
 
 
次へ そのころのスコールは?