(思惑 SideL)
『エスタの科学力はすごいんだ』 憧れの混じった声が言った それを覚えていたわけではない これは“偶然” 言葉を覚えていたから、エスタを訪ねた訳ではない 興味を抱いたから“工場”の見学に訪れた訳ではない エスタは、新しい仕事場として使えるかどうか下見に来ただけ 国レベルなら不可能でも、個人レベルなら盗みに入るのも可能かと思ったから 工場は、たまたま選んだ見学コースに含まれていただけの事 噂の機械を目の当たりにして驚愕して、警備の厳重さにため息をついた それにただの観光コースの工場が、国の重要機関の一つだなんて誰も思ったりしない 手を出そうなんて思いもしなかった 1人用の小型飛空艇に触れてみる コレを見つけたのも偶然 ……いいえ、コレを見つけだしたのは、私の野生のカン これほど使えそうな、そして、これほど私が欲しいと思えるものに出会ったのだもの こんなモノまで開発していたなんて……… コレを見つけてしまったから、コレが欲しいと思ったから、私はたくさんの無茶をした 機体の表面を撫でる 冷たい金属の感触 「コレが手に入れば移動するのも楽になるわよね?」 街から街へ国から国への移動手段を思い悩む事がきっと少なくなる でも、逆に今度は隠れ家に困るかしら? 人目につかなくて、発着するのに便利な場所、そんなところは探せるかしら? 楽しげな笑みが口元に浮かぶ でもこんなに上手くいくなんて 昔のつてをたどって、相手を騙して仕入れたガルバディア軍の軍事技術 詐欺の様なプログラムは、一か八かの賭けだったけれど 「エスタも大したことがないわね」 人気のない倉庫に彼女の声が響いた あんな単純な手が通用するんですもの! 灯りもコンピューター制御なのか倉庫の中は暗闇に包まれている 彼女は、慣れた様子で闇の中を歩き回る きっと、ガルバディアに教えてやれば大喜びするわね 金属音、そして、機械音が響く 飛空艇のハッチを開けようとして、困惑したように立ち止まった 「あら?」 開くはずのソレは全く動かない 「可笑しいわね?コレで動かないなんて事はないはずなのに……」 落とした視線の先にはバックライトの小さな灯り 強引に接続した先から、機体へと微かな信号を送る 甲高い音が辺りに響き渡った エラー表示、そして、排除機能の起動 「どういうこと!?」 こんな、最後でこんな事が起きるなんて! 彼女は、必死で、解除する為のプログラムを送り込む 画面が黒く塗りつぶされる 青ざめる彼女の頭上で不意に灯りが灯った |