英雄と泥棒
(思惑 SideS)


 
『ギブアンドテイクよ』
声はそう言った
相手は、エスタの国営工場のシステムを停止させるのでその間製品を奪うなり好きな様に騒ぎを起こせと告げた
『私が欲しいのは一つだけ、後はあなた達の取り分、多少の危険を考えても悪い話ではないわ』
エスタの機械
それは確かに金持ち連中が競って買いあさろうとしている物だ
それを奪う事ができれば金になる
だが………
『それが本当だと言う保証でもあるっていうのか?』
エスタの防犯システムが手強い事は、この業界にいる奴らは百も承知だ
腕の良い泥棒、盗賊、強盗………
そう言った同業者(細かい意味で言えば同業者とも言えないが)が数多く捕まっている
俺達を捕らえる為の罠だとしたら?
それでなくとも俺達を犠牲にして、自分だけ美味しい蜜を吸おうとしているのかもしれない
『信じる信じないはあなたたちの自由だわ』
そういって、姿を見せない相手は笑ったようだった
『そう、最後に良い事を教えてあげる、ターゲットは観光地になっているわよ』
そう言って、消えた盗賊の言葉を信じた訳では無かった
だが、見逃すには惜しい条件だ
「こううまく行くとは思わなかったな?」
観光客として潜り込ませた仲間が、あの相手が言ったとおり全ての機械が停止した事を告げてきた
「あとはコイツを売り払うだけですね」
どうにかして、手に入れられないかと打診してきた金持ちは山の様にいる
盗品だとは知らなかった、そう言いさえすれば罪に問われる事はない
ああいう奴らの方がよっぽど悪どい
売れそうな物(あいつらが打診してきたもの)は、粗方回収出来た
職員を人質に取ったってのは正解だったな
そういや、あいつはどこにいるんだ?
取引を持ちかけた相手
派手に騒ぎを起こせと言っただろうか?
目的の物がある位置を記憶していると言うことだろうか?
どうも信用ならない相手だ
見つけたら捕まえろと言っておいたが……………
罠かもしれないという考えは常に頭にある
だが、これだけ大量の人質が居れば逃げ出す事など造作もない
「それにしても、あいつら遅いな」
「でかい獲物でも見つけたんじゃないか?」
辺りに笑い声がこだました
人質がいる状態で、手をだそうなんて奴はいやしない
俺達はついている
くだらない話に興じていたその時、重く空気を裂くような音がした、続けて、銃を持った手が折れるかと思うほどの強い痛み
うめき声を上げると同時に、強い衝撃によって身体が吹き飛ばされた
 
 
 
 
次へ そのときのラグナは?