英雄と夢想家
(予兆)


 
人騒がせな遺跡の騒動がどうにか収まり、すでに半年
モンスターの一掃された遺跡は不可思議な力を失い、ごく普通の遺跡へと姿を変えた
そしてようやく安全が確認された遺跡へ、国内外の学者が押し寄せている
今で発見されたどの遺跡よりも古い遺跡
興奮した彼等の情熱の産物が、毎日の様に報告されていた
かつてモンスターに埋め尽くされていた地とは思えない平和な光景
ごくまれに起きる騒ぎは、学者達の些細な衝突でしか無く
念の為に派遣されているエスタ兵の出番はまったく無い

学者達のおかげで、実証される事になった安全
安全であると、判明したとたん、国内外の人々から観光局へと、問い合わせが殺到し始めた
『学術調査が終わった後に……』
悲鳴の様に繰り返される言葉
SeeDの派遣を自然なモノとする為に使われた
『観光地への活用を促す為のモンスターの排除』
という依頼理由が真実になり
エスタ国内の新たな観光名所が生まれようとしていた

身元不明の人間と未だ行方しれずの人間
エスタ政府が密かに探しているのは、遺跡の騒動と同時期に起きていた小さな事件の首謀者
そして、その人物と共に姿を消した1人の科学者
彼等の隠れ家へと踏み込み
一番重要な人物を逃した事が判明してから、すでに半年あまりの時間が経過している
人々に知られる事無く、調べられた出入国者の記録
そして、今現在エスタに滞在している者の所在、身元の確認
いずれの手段においても、目的の人物を見いだす事ができなかった
『これほどの年月が経っている。ならば、既にエスタには居ないと考えるのが妥当だろう』
確かにその通りだ、これ程の期間探し続け、それでも見つからない意味、そう考えるのが妥当だということは判っている
だがそれは、認めたく無い、容易に認める事の出来ない事実
どれだけ探しても、出国どころか、首謀者と見られる男の姿が入国した記録さえも無い
彼等が、エスタ国内へ不正に入国する手段を持っている事が予想出来る
稚拙なスパイ行為そのものよりも
既にこの事がエスタ高官達の間では重要視されていた
いったいどうやって、この閉ざされたエスタの大地の何処から、どの様な手段で入出国をする事ができると言うのだろう!?

未だ判明しない事柄に、言い知れぬ不安がゆっくりと広がっていた
 
 
 

 
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