英雄と夢想家
(平穏 SideL)


 
平和だなぁ……
窓から差し込む穏やかな日差し
心地よい温度に調整された室温
今日は、急ぎの仕事も、事件も無い
人々が立てる物音もほとんど聞こえない
静かな室内には、のんびりとした空気が広がっている
書類にサインをする手を止め、大きく一つ伸びをする
ずいぶん長い間、同じ姿勢でいたせいか、身体の節が小さな音を立てる
たまには動かないと身体が鈍るな……
そんな事を考えながら、ぼんやりと向けた視線の先
秘書官の1人が居眠りをしている事に気づいた
ま、こんな陽気じゃ仕方ねーよなぁ
小さな苦笑と共に口うるさい補佐官に見つからない事を少しばかり祈って、見過ごす事にする
目の前に置かれた幾多の書類は、ただサインさえすれば良い物ばかりだ
久しぶりに休暇を取るのも良いかもしれないな………
様々な事を考えながら、ラグナは再びペンをとった

「ちょっと良いかな?」
窓の外には巨大な夕日
職員のほとんどが帰宅する頃、不意にキロスが顔を出した
「なんか、あったか?」
すっきりしないと言った感じのキロスの様子に、ラグナの眼が真剣味を帯びる
「いや、特に何が有ったと言うことも無いんだが……」
そう言って、何事か考える様子を見せる
何か引っかかるって事か?
最近は平穏そのものって感じなんだけどな…………
キロスの言葉を待ちながら、ラグナは思い当たる様な出来事を記憶の中から探る
無言の時間が経過し
「どうも嫌な感じがする」
ぽつりとキロスが呟いく
……嫌な予感?
「君は、例のスパイの一件を覚えて居るかな?」

長い話になる、というキロスの言葉を受け、一時的に話を打ち切り私邸へと戻っていた
「今の段階では手の打ちようが無いよな……」
未だに見つからない首謀者らしき男、か……
「その通りだから困っているのだがね」
そして今、ラグナの私室で声を潜めた話が続けられていた
「それで、もう1人の方の経歴は出てるんだろ?」
ただ1人共に逃げ出した、男
科学者って言ったよな?
「もちろん、それは調べがついているんだが……」
言葉の後に、渡される資料
準備良いな……
関心すると同時に、それだけ重要な事だと言うことだろうと見当をつけ、ゆっくりと眼を通す
………………………
これは、まずいかもしれないな
「ウォードに言っといた方が良いんじゃないか?」
たぶん、キロスが懸念しているだろう事が実際に起こるとすると大変な事になる
「彼とはすでに打ち合わせ済みだ」
「なら、最悪の場合に備えて出来るだけの事やっといてくれ」
そんな事態にならないと良いんだけどな
キロスの予感ってのは当たるからな……
ため息と共に見上げた天井が白く光っていた
 
 

 
 
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