英雄とセントラの謎
(セントラ内エスタSideL)
あまり知られていない事だが、エスタの領土はセントラ大陸にも存在している
大陸の東端、その辺りがエスタの領土だ
ここがエスタの領土となっている理由はただ一つ
セントラ大陸の状況を見守る為
セントラに発生したモンスターの不自然な動きなんかを見張るための施設なんかが設けられている
アデル関連の事件から、ついこの間までここも活動を休止してはいたが、遙か遠い昔から続けられていた事の一つだ
最も新しいセントラの施設
そして、最も古いエスタの施設
―――セントラ崩壊、その直前からこの施設は存在してる
もっとも今使われているのは、比較的最近造られた設備だ
昔のモノはその存在も忘れられている
セントラのモンスターの様子を知る
施設を訪問した目的は、何一つ嘘は無い
設備や装置そしてデータの説明をする職員の話を聞きながら、ラグナは建物の構造をじっくりと観察する
今いるこの場所でもある程度のデータは揃っているが、完璧ではない
出来るなら元の施設の方に残っているデータを覗きたいが………
記載されていた移設の理由は、機械の故障
多少設備が壊れたぐらいなら、故障箇所を直すか新しい装置を入れれば良い
まだ使える状態の建物を放棄したとなると、故障の仕方がシャレにならねぇって事なんだよな
指し示されるここ最近のデータと昔のデータに頷きながら、ラグナはこっそりと考えを巡らす
どういう故障なのか良く解らないが身に危険が迫ったとしても、まぁどうにかなるだろう
ただ問題なのは、影響がこっちに迄出る事なんだよな
この施設と昔の施設は、完全に新しく分離した形になっている訳じゃなく、どういう仕組みかどういった理由なのか、一部連動している
下手に手を出す訳には行かないんだよな
とりあえず破壊して身の安全を確保する、という手は使えない
旧施設内に入り込んだとしても、まずは故障箇所の特定と現行の施設に対する影響を計算しなければならない
あんま機械は得意じゃねーんだけどな
職員へと幾つかの質問をし、回答に返事をする
誰かの協力を仰ぐわけにもいかねぇし、やれるだけやってみるか
エスタへと月の涙が落ちた時期のセントラでのモンスターのデータを解析するよう指示を出し
「………んじゃ、せっかく来たんだし、適当にその辺でも見て来るわ」
ラグナは一人、旧施設を目指し歩き出した
警備システムの故障
たどり着いた施設内で、伝えられた警句は極単純なものだった
………そう、伝えられた
間の抜けたことに施設全体を総括するシステム自体は正常に作動していて、警備システムのみが独立した形で暴走したらしい
「そのシステムを停止するとか修理するとか、なんかやりようはないのかよ」
ラグナの呆れきった言葉に
「可能ならとうの昔にしています」
憮然とした声が、聞こえる
「まぁ、そう言われりゃそうなのかもしれねぇけどよ」
総括システムが伝える、警備機能が働いている箇所を避けながらラグナは施設内を歩く
「で、本当にシステムを壊しても影響はでないんだよな?」
「はい、それは保証します」
妙に勢い込んだ行程の言葉に続けて、あの時も破壊するように言ったのに………などと愚痴の言葉が聞こえる
………ほんとに大丈夫なんだろうな?
どうも機械らしさの無いその様子に、本当はこっちの方が壊れているんじゃないかという微かな疑いが消えない
確かに今の所警備システムにひっかかってはいないけどさ
官邸の奥深くに眠っていた施設内の設計図や見取り図と照らし合わせて考えてみても、確かに警備システムの中核へと向かう道筋で間違えもない………と思う
本当に正しいかどうかってのは、たどり着いて見ないと解らない所はあるんだけどな
実際の所は、方向音痴と言うほど感覚は狂ってないが、絶対に迷うことがないと断言できる程優れた感覚も持っていない
巧妙に誘導されれば、普通に迷う
「あ、前方から警備兵が一台近づいてきます」
「前方?」
「ええ、見つかると複数の警備兵が押し寄せると思いますが………」
総括システムの忠告に従い、足を止め辺りを見渡す、が
「無いですね、隠れられる所」
退避する部屋どころか、随分前からここは一本道だ
「隔壁降ろすとかなんか無いのかよ?」
「そうしたいのは山々ですが、そっちも警備システムの管轄なんですよねぇ」
そう告げて、システムが乾いた笑い声を上げる
「つまりここでは、見つかる以外にないってことだな?」
遠くから微かな空気の振動を感じる
「そういうことになります」
確かに、一本道の向こうの方から何かが近づいてくる
「しゃーねーなぁ」
ため息と共に、左腕につけた時計をはずす
「ただの視察って事になってるからまともなん持ってねーんだよな」
右手に収まると同時にベルトが掌サイズで固形化し、そこから電磁の刃が伸びる
「最短ルートを指示しろ」
小さく、警備兵の姿が見える
どうやら向こうもこっちを発見したらしく動きが変わった
さて、面倒な事になる前にいくか
警備兵が押し寄せる前に、システムを破壊する
機械兵が警告を発するより早く、ラグナは攻撃を加え、倒れた警備兵を振り返ることなく走り出した
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