英雄とセントラの謎
(警備システム SideL)


 
二つの声が響く
一つは侵入者を排除しようとする感情の無い警備システムの声
一つは固定化された機械がどこにあるのか教える感情豊かな総括システムの声
解っているのに手が出せず
自分の一部―――元は総括システムの管理化にあったらしい―――が勝手な行動を取る
そんな不条理な状況を味わっている総括システムが苛立たしげに言葉を紡ぐ
まぁ、助かるって言えば助かるかもしれねぇんだが、それよりも煩い
大騒ぎしながら―――騒いだのは俺じゃないんだよな―――たどり着いた扉の前
「ここが警備の中核、でいいんだな?」
独立したという警備システムの収まっている場所
「知らない間に配置換えでもしてないかぎりは」
さっきとは一転落ち着いた声が告げる
「で、壊しても問題はないんだな?」
まぁ、壊すな復旧させろって言われても無理だけどな
「ええ、私本体はこの場所から遠い場所に居ますし、新しく造られた外側の施設も警備システムとの連動箇所はないですから、安心して思いっきりやっちゃって下さい」
確かにわざわざ壊れた箇所と連動するシステムを新しく作ったりはしないだろうな
途中警備兵から奪い取った銃器を手に、ラグナは扉へと身を寄せる
さすがに、総括システムにも敵の本拠地になるこの中の様子は把握できないらしい
―――だから、警備システムの破壊を断念したんだろう
ラグナの手が扉へと触れる
「………で、この扉はどうしたら開くんだ?」
「扉の左側のプレートに手を乗せれば………データが登録されていれば開くんですけど………」
さすがにデータが登録されてるってのは、ないんじゃないか?
「ちなみにデータを送り込むなんつーことは………」
「出来ないことはないかと思いますが」
通路の向こう側に警備兵の姿が見える
「まぁ、とにかくチャレンジしてみてくれ」
無造作に撃った銃から軽い音がした

扉が開くと同時に幾つもの光が放射される
光に当たった向かい側の壁に小さな傷がつき、熱せられた金属の臭いがする
基本的に施設を防御する為に備えられたシステムには、施設を破壊するような機能は備えられていない
警備システムが独立しているのは万が一総括システムが乗っ取られた時の為だが、総括システムが正常に動いている今は、在る程度システムを依存している
システムが切り替わるのには僅かな時間がかかる
ラグナの左手がポケットを探る
指先に触れるいくつかの金属
照明が落ちる
その瞬間、ラグナの左手が、扉の中へと幾つもの金属片を放る
一時的なとはいえ、総括システムの完全停止
その瞬間、システムが切り替わるまでのほんの僅か、警備システム自体も停止した
小さな火花が散る
連続した爆発音が響く
そして火柱が上がる
炎が発する熱が吹き付ける
ラグナは炎が上がる扉の中へと身を滑らせる
重く金属製のモノが倒れる幾つかの音
部屋の奥へと備えられた機械が見える
そして、扉を向き並んだ警備兵の姿
ラグナの動きより2拍ほど遅れたタイミングで放たれる攻撃
なぎ払った刃に幾体かの警備兵が火花を散らす
兵の相手をし、部屋の中を移動しながら、破裂弾を警備システム本体へと投げつける
こぎみよい音が続き、機械を覆う透明な壁にひびがはいる
兵士達の動きがほんの一瞬動きを止める
侵入者―――ラグナを排除しようとする動きから、システムを守る動きへの変化
その一瞬を逃さずに、ラグナは一気にシステム本体まで駆け寄る
手元で操作した電磁刃の出力レベルは最大
空気中の微かな物質に反応した、小さな火が燃える
機械が発する声が聞こえた
それと同時に、振り下ろした刃が、透明な防護壁ごと機械本体を切り裂いた
 

 
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