英雄とドール
(護衛 SideS)


 
予定にない行動は困る
スコールは口にしかけた言葉を飲み込む
ラグナだけならば言っていたかも知れないが、ラグナの傍にはドールの重鎮が一緒だ
それにこの対談は、彼の方から持ちかけたんだという
「護衛を頼む」
その一言にスコールは一礼し、承諾の意を告げる
『悪いな』
エスタ独特の装束を着替えたラグナが、隣を通り過ぎる際に声を掛ける
そう思うのなら、大人しくしていてくれ
内心で声に出せない言葉を呟く
向かった先は、先ほど会談に使われたのとは全く違う場所
二人が中に入り、扉が閉ざされる
「この辺りの配備はどうなっている?」
付近に不穏な気配は感じられない
「少し手薄かもしれないよね」
セルフィが応え、風神が警護の人間へ移動を指示しに行ったことを告げる
「ここは俺が担当する」
「それじゃ、私達はこの辺りを見回ってくるよ」
戻ってきた風神の手を引きセルフィが走り去って行った

「話をしても?」
扉の前に立つスコールの元へと近づいてきたのはドール評議会メンバーの一人
ゆっくりと歩みよるまだ若いその男をスコールは警戒しながら見つめる
こちらへ向かってくる足の運びに特徴はない
武器を持っているような様子も見受けられない
………何らかの行動を起こすとは考えにくいが
「警護中です」
そっけないスコールの言葉に、困ったような顔をしてみせる
「それは解っているけれど、少し君と話がしたいんだけどな」
こちらに引きつけておいて違う場所で騒ぎを起こすという可能性もある
スコールは警戒の姿勢を解かないまま彼が近づいてくるのを待つ
一瞬扉の方へと視線が向けられる
「エスタとドール、このたびの会談は画期的なことだとして世界各国が報じているみたいだね」
スコールから数歩離れた位置で足を止める
「………………」
スコールは手の中に握りこんでいた小さな機械のスイッチを押す
警戒するように告げる信号
ほどなく風神がこちらに向かってくるはずだ
「先ほどの到着の様子も、式典の様子も一部各国の報道機関に流された」
男が話そうといている話の意図が見えない
「第三者としての君に聞きたいんだけれど、ドールはエスタと仲良くなろうとしているように、見えたかな?」
廊下の角に風神が姿を現す
こちらを窺う様子にそのまま待機するよう指示を出す
「質問の意図がわかりませんが」
仲良くなるつもりはないということだろうか?
幽かに眉が寄る
「いいや、そうじゃないよ、ただどんな風に見えたか気になっただけだよ」
見え方によって、出方が変わってくるかも知れない
小声で続けられた言葉にスコールは良くない存在を感じとる
式典の際の様子、か
思い浮かぶ情景は終始静かで和やかだったことだろうか?
ああいうラグナの姿はめったに見ないから珍しいと感じたが、それは個人を知るスコールの意見だ
求められた回答には結びつかない
どんな風に見えたか
そう聞かれたところで、こういった国と国との会談などという場面は滅多に目にするものじゃない
「少なくとも、仲が良さそうには見えなかったな」
「そうか、それなら安心かもしれないな」
そう言って男が再び扉へと視線を向ける
「もしも明日」
元々静かな声が吐息程の音に潜められる
「予定外の場所へ赴くことになっても、君達SeeD以外には知らせないようにして欲しい」
「邪魔をして悪かったね」
何事もなかったように背を向け歩き出す
彼とすれ違うように風神が近寄って来た
 

 
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