英雄とドール
(沈静 SideS)


 
「スコール待機」
ラグナが突き止めた古い建物の前で、風神がスコールの動きを止める
「我開」
「解った」
風神に任せて、スコールは扉の影に身を隠す
さりげなく手の中の剣を握りしめるのと同時に、風神が勢いよく扉を蹴破る
見張りに立っていたんだろう数人の人間が弾かれたように振り返る
「て………」
声を上げようとした男に当身を食らわせる
崩れ落ちた男に目もくれずスコールは慌てて武器を手にした“敵”へと武器を振るう
スコールに続いて突入してきた風神が室内を一瞥し武器を投げる
スコールの周囲に居た敵達がくぐもった声を上げ、なぎ倒される
一歩、相対していた敵が、逃げ出そうと後ずさる
追うようにスコールが持つ剣が振り下ろされる
ほんの僅か、刃の長さが足りない
切り裂くはずの無い刃が、敵の身体の表面を撫でる
相対していた敵が大きく揺らめく
手に伝わったのは、羽が触れたような微かな感触
斬られた男が倒れる
今のは、なんだ?
足りなかったはずの距離が勝手に変わった
かすっただけの刃が勝手に切り裂いた
「スコール、探索」
確認するように剣を見つめたスコールに風神が声を掛ける
「ああ、そうだな」
すぐに片がついたとはいえ、戦闘による物音は大きく響いたはずだ
だが………
階上から人がやってくる気配はない
「敵無?」
辺りの気配を探るが、感じ取れる範囲に人の気配は無い
「どうやらこの近くにはいない様だ」
この建物の中に居たのは見張りらしいこの男達のみ
すでに脱出済みなのか、それとも………
「地下」
風神の言葉にスコールは頷く
見張りが居ることを考えれば、この場所のどこかに地下室があると考えるのが妥当
2人の視線が部屋のあちこちを見つめる
部屋の中をゆっくりと歩きながら可笑しな所が無いか調べる
スコールの足が部屋の右半分へと向かう
踏み込んだ足が微かな違和感を伝える
今のは?
一歩足を戻し、ゆっくりと足を踏み出す
ぐっと
踏み出した足に体重を乗せる
僅かに柔らかい感触
「違和感有?」
スコールが足を退けると同時に、風神が足を踏み込む
確かめるように軽く体重をかけ
次の瞬間勢い良く蹴りつける
硬い音と共に、風神が蹴りつけた場所を中心に床が抜け落ちる
「正解」
満足気に頷くと風神が開いた穴を降りていく
気づかれたんじゃないか?
スコールは首を振って、風神の後をついていく
地下フロアに足が着くのと同時に、通路の先からざわめきが聞こえた

慌てふためく敵を押し払いながら、奥へと進んでいく
スコールが討ち漏らした敵を風神が始末しているのだろう
スコールの背後で時折悲鳴が聞こえてくる
通路の終わり、立ちふさがる敵を払いのけてスコールは中に足を踏み込む
たどり着いた先には広間ほどの空間
僅かに視線を逸らした先、壁際に人が重なる様に集まっている
その場に脱出口があるのなら既に逃げ出している筈だ
目にした限りでは、逃げ道がある様には見えない
スコールは慎重に男達の元へと近づく
背後の通路から風神が歩いてくる足音が聞こえる
高く響く音は、聞かせる為にわざと足音を立てていることを伝えている
非戦闘員らしき人の中心に居る人物がひるんだ様子を見せる
守られる様な位置に居る彼が首謀者だろうか?
スコールが彼へと視線を向けた事に気付き、両脇に配置していた相手が数人襲い掛かってくる
スコールは無造作に右手を振り払う
軽く振った筈の剣が向かってきた男を斬る
返す刃に巻き起こる風圧
不自然なほど強い風圧が男達を吹き飛ばす
腕を軽く引いただけでは起こるはずの無い現象にスコールは眉をひそめる
………いったい、何を渡した?
渡された剣は普通の物ではない
勢い良く叩きつけられた男達からうめき声が起こる
動けそうにはないな
彼等の状態を確認すると、スコールは倒れ付した彼らを跨ぎ、壁際に固まった一団の元へと近づく
「不動」
風神の声とくぐもった悲鳴が聞こえる
中心に居た男が腕を動かす
高い音が響き、こちらへ呼びかける人の声が聞こえる
「仲間はまだ居るんだ」
男が在り来たりの言葉を叫ぶ
「煩、沈黙」
言葉を続けようといたらしい男が、風神に踏み潰される
くぐもった声が聞こえる
尚も何かを言い募ろうとした男の動きが止まる
男が手にしていた装置から聞こえる剣戟と銃撃の音
耳を済ませば怒号と悲鳴も聞こえてくる
スコールは一団へと剣を突きつける
「降伏するんだな」
男の顔が引きつり、僅かな躊躇いの後武器が投げ捨てられた
 

 
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