英雄と少年
(噂 SideL)


 
目の前の書類を前に顔をしかめる
「そろそろ休憩にしようぜ」
室内に居る奴等に声をかける
思い思いに息抜きを始めた姿を横目に大きく伸びをする
「そういえばこんな報告があるんだが」
一枚の紙を手にキロスが近づいてくる
「休憩だって言っただろうが」
聞こえているんだろう文句は綺麗に無視して
「どうやらバラムにモンスターが出るらしいぞ」
キロスはひらひらと紙を振る
モンスター?
モンスター位どこにだって出没する
それをわざわざ“出没する”なんて言うって事は、普通の出方じゃないって事だろ?
キロスから紙を受け取り目を通す
報告書じゃねーな
見た限り誰かから聞いた話を走り書きしたメモだ
「どっから聞いてきたんだ?」
バラムの田舎町にモンスターが出没する
ここだけならどこにでもある当たり前の話
わざわざキロスが話題にするようなことじゃない
「モンスターの行動が可笑しい?」
走り書きされた文字
「どうやらモンスターが普通では考えられない行動を取っているらしい」
考えられない行動?
ラグナは楽しげな笑みを浮かべるキロスを見上げる
「考えられないっつーと、モンスターが人助けでもしたか?」
簡単に話すつもりはないらしいキロスの様子に、モンスターの言葉から想像しにくいだろう事を言ってみる
「さすがにそこまで愉快な話ではないな」
普通では無いが、モンスターの種類によってはあり得なくもない話だろ
「モンスターの行動に規則性が見られる」
珍しいかもしれないが、考えられないって程じゃないな
「モンスターが積極的に攻撃をすることが無い」
やたらと臆病なモンスターだって存在してるだろ
反応の薄いラグナの様子にキロスが自信ありげに人差し指を立てる
「モンスターは民家を荒らしていくらしいが、食料以外に道具も奪い去るそうだ」
「道具?」
モンスターに道具は必要無い
一部使いそうな奴等も居るが、人を襲う“モンスター”の中に人が作った道具を必要とする様なヤツはいないはずだ
「………人間みたいだな」
道具を必要とするのは人間
「そう思ってみるとその他の行動も随分人間らしいと思わないかね?」
「モンスターなんだろ?」
「目撃情報によればモンスターだそうだ」
目撃情報、か
目で見たからと言ってそれが真実かどうかは解らない
確かに見たのだとしても、それだけがそこに居たとは限らない
モンスターの背後に人が居るのか
それともモンスターとは名ばかりの変種なのか
「場所はバラムだったか?」
「残念ながらね」
興味は在るが、他国の出来事に首をつっこむ訳にはいかないだろうからな
「バラムならSeeDが出るな」
バラムは軍の無い国だ
他の国では軍に任せる様な仕事は全部ガーデンに持ち込まれていると聞く
ただのモンスター討伐なら適当なヤツが派遣される
だが、何が必要となるのか読めないような案件なら上の方が出ていくだろう
「後で彼奴等にでも聞いてみるか」
スコールはダメだとしても、聞けば誰かは口を滑らせるだろう
「それが一番確実だな」
仕事の内容を簡単に話す様じゃ、プロとしては失格なんだろうけどな
あいにくわざわざ言ってやる程俺もキロスも親切じゃない
「そろそろ仕事を始めましょうか」
補佐の言葉に、二人の会話を聞いていた役人達が何事も無かったかの様に仕事を再開する
「それでは何か情報が入ったら、連絡するとしよう」
「頼んだ」
ラグナの手元に紙を置いてキロスが離れていく
ゆっくりと肩をまわし机の上に置かれた書類を手に取った
 
 
 
 
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