(人)
誰かが近づいてくる気配 知らない気配を敏感に感じ、身を隠す ここは子供だけの大人には内緒の場所 大人には絶対に知られてはいけない場所 別々の方向から聞こえる足音 足音は二つともこっちに向かってくる 急いで場所を移動して隙間から外を覗き込む 別々の方向から来た二人が足を止める 話し声が聞こえる こんにちはとか 良い天気ですねとか 聞こえにくい声を聞いていて解ったのは、二人が知り合いではないということ 知り合いじゃない二人がここに来たのはたまたま? それとも――― 二人が別々の方へと歩き去っていく 遠ざかっていく背中をじっと見ていると、二人とも気にするようにこっちを振り返った 本当はここに来たかったんだ ここに来るつもりだったんだ 「どうしよう」 不安が言葉に出た 心配する様に見つめられる 「大丈夫だよ、秘密の場所を移せばいいんだ」 僕たちが隠れる場所 遊ぶ場所に他にも一杯ある 「引っ越しをしよう」 誰かの言葉に声が上がる 見つからないように早い内にね 「でも戻ってきたらどうする?」 荷物を抱え上げて歩き出そうとして足を止める 「大丈夫だよ、他の所から出ればいいんだもん」 そう言ってつかんだ手が知らない道を歩き出す 「今度は何処に行こうか」 「森の中」 「崖の所は?」 「水の傍がいいよ」 誰かが言った質問にいろんな答えが返ってくる どう思う? 顔を覗き込まれて聞かれたから 「あんまり遠くない方がいいな」 って答えたら皆が悩み出した 「あんまり遠くないところで良いところってあったかなぁ」 暗い道を手を引かれて進む 「あんまり居心地が良くない所は嫌だよね」 「でも遠いと、行くのが大変だよ」 歩きながら何処に行くのか相談する 「行って帰ってこれるだけじゃダメだよね、遊ぶ時間もちゃんとないと」 賑やかに騒いでいる内に、いつの間にか通っているのは森の中 「それじゃあ、あそこでいいんじゃない?」 すっと伸びた指の先には洞窟があった
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