英雄と少年
(移動)


 
ずっと長い距離を歩いている
後ろを振り返ってもいつもの洞窟は見えなくて
前を見ても知っている場所は見えてこない
「何処まで行くの?」
握られた右手に力を籠めて聞いてみる
「ゆっくり遊べる所まで」
遊べる所
さっきから皆が言う言葉
皆と遊ぶのは楽しいけれど
「でも、もうすぐ暗くなるよ」
ずっと歩いてきたからもうそろそろ帰らないとならない時間
良く解らないけれど、多分そう
「まだ大丈夫だよ」
「そんなに時間もたってないもん」
「お家だって、すぐそこだよ」
「木が邪魔で見えないだけだもんね」
周りを歩いていた子達が次々と口を開く
「………ほんとう?」
ずっと歩いてるから、時間がたったって思ってるだけ?
見たことがない場所だけど、それはただ森の中に入ったことが無いから?
あの木の向こうには村がある?
「どっち?」
あの木の向こう
どの木なのかが解らない
「「「あっち」」」
そう言って指さした方向はみんな一緒
握った手とは逆の方
「どれくらい?」
「走ればすぐ」
「歩いてもあそこより早いんだよ」
「そうなんだ」
にこにこと笑って言う
あそこよりも近いのなら、まだ大丈夫かな
村があるっていう方を見て見るけど木が邪魔でやっぱり村は見えない
「それで、どこまで行くの?」
「もう少し先」
「おっきな石の向こう側」
指さす向こう、木の間から何かが見える
おっきな石ってあれ?
「石?」
「そう」
聞いたら皆がっせいに頷く
ふーん、こんな所に石があるなんて聞いた事無かったな
歩いていくと皆が言った通り、おっきな石が見える
「あれの向こう?」
聞いたのと同時に何人かが走り出す
「そうだよ」
繋いでいた手がはずれる
軽く押された背中に、走っていった皆を追いかけて走った

裏側を隠すように石が聳える
小さな隙間を抜けるようにして子供達が消えていく
歓声が遠ざかる

子供達の内一人が、石の手前で足を止め睨み付ける様に背後を振り返る
子供の姿が消えて無くなる
辺りには静寂が残された
 
 
 
 
 
 
 

 

 
次のラグナサイドへ  次のスコールサイドへ