英雄と少年
(巣穴)


 
不安げに見つめる瞳へと手を伸ばす
―――大丈夫
告げたくとも告げられない言葉
何が起こるか解らない状況で無責任に大丈夫だとは決して言えない
こちらへ向かって近づいてくる足音が聞こえる
初めての出来事
ぎゅっと握った手に力が入る
ここが見つかった事は無かった
ここは安全な場所
そのはずだった

誰かが立てる物音一つしない場所
居るはずの人達の名前を呼んで
居るはずの人達を探して
行ってはいけないと言われていた場所まで覗き込んだ
けれど、何も聞こえない
―――誰もいない
「なんで?」
呟いた言葉が反響する
何かが近づいてくる様な気がして恐る恐る振り返る
何も居ない
飲み込んだ悲鳴
思わず走り出した足
走って走って
目の前に扉が見えた
閉じた扉はまだ入っていない場所
息を切らせて扉へと手を伸ばす
すんなり開く筈の扉は、どんなに頑張っても開かなかった

暖かな温もりに手が触れる
少しごわごわとした手触り
音が鳴り響いた
自分以外の“人”が立てる音
この場所で聞いた久しぶりの音
彼等が一斉に、警戒したように音の方へと首を巡らす
微かなうなり声に、無意識にかき混ぜるように手が動く
何者かが侵入した
ここには他人を入れてはいけない
排除すべき出来事
だと言うのに
動けない
―――動かない
遠くで音がしている
うるさいほど音を立てる心臓の鼓動を聞きながら
誰かが近づいてくるその音を待っていた
 

 

 
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