英雄と少年
(内部 SideL)


 
白い壁が続く無機質な室内
動きに合わせて作動していく機械の数々
同じような扉が続く、長い廊下
長い廊下をゆっくりと歩くが、近くには生き物の気配はしない
ふと思いつきすぐ近くにある扉を開ける
抵抗もなく開いた扉の中を覗き込む
埃の積もった室内
にごった空気
長い間使われた形跡は無い
崩れ落ちた機械
壊れたテーブルや倒れた椅子
何かあったみたいだな
使われなくなった施設
っていうよりは、破壊された施設
攻撃を受けた後に見える
埃っぽい室内を確かめるようにゆっくりと見渡す
………違うみたいだな
見覚えの在る意匠は見当たらない
少なくとも、エスタ時代の施設ではない
「古い施設なのは間違いなさそうだけどな」
少なくとも今のバラム政府は関与してはいない時代
下手をするとバラムという国が存在する以前のものかもしれない
ここが何のために造られた場所なのか知るはずもない
ただ、今わかっているのはこの施設が生きているということ
ここに人が居るということ
ラグナはゆっくりと扉を閉じる
辺りに扉が閉じた音が響く
ノブをつかんだ姿勢のまま辺りを伺うが、誰かが来るような気配は感じられない
動くつもりはないって事か
少なくとも歓迎するつもりは無いだろう
だが、積極的に追い出すつもりも無いらしい
何が出てくるんだろうな
廊下の先を見つめ、ラグナは再び歩き出した

生き物の気配を感じる
頻繁とまでは行かなくとも使用した気配のある扉
扉の中にあるのは複数の生き物の気配
人の気配って訳じゃないな
モンスターだって考えるのが順当だよな
目撃された複数のモンスター
報告によれば、モンスターの群れは倒された訳ではなく逃げていったって話だ
SeeDたちが相手にしたつもりでいるものは、きっと幻だろう
「いきなり襲ってくるってことは無いとは思うけどな」
モンスターの行動を考えると、戦闘を好まないように感じる
中に警戒しながらラグナは扉を開いた

話に聞いていた獣型のモンスター
その中心に立つ一人の青年の姿
青年を守るように立つモンスター達の様子
「ここは君の、居場所か?」
“家”と問いかけかけた言葉を飲み込む
例えこの場所に住んでいたとしても、ここは家とはいえない
じっとこちらを見つめる視線
しばらく時間を置いた後、彼は無言で頷く
「何時からここに居る?」
「………ずっと」
雑音が混じる擦れた声
「もう何年もここに居る」
室内に残る生活の後
ここまでの間に人の気配は感じられなかった
人が生活していた痕跡も薄い
「一人でか?」
動揺したように、視線が揺れる
ラグナは目の前の青年をじっと見つめる
モンスターが落ち着かない様子で周囲を回る
室内に在る真新しい幾つかの道具
あれはモンスターが持って行ったというものだろう
それらと一緒に置かれている古い機械
「………ここには誰もいない、誰もいなくなった」
骨董品と呼ぶのに相応しい機械達
「そうか………」
ラグナは深く息を吐き出す
ずっと一人でいる
「以前は家族でここに住んでいたのか?」
一人で居た事も
ずっと居た事も問題じゃない
問題は“ずっと”の期間がどれ位なのか
「前、は………」
視線が辺りを彷徨う
モンスターが低くうなり声を上げる
「ああ、言いたくないんなら言わなくてもいいからな」
ラグナの言葉に首が横に振られる
「前は大人も子供もいろんな人が沢山いた」
気が付いたら居なくなっていた
続けられた言葉にそっと目を閉じる
「ここが動いていた時か?」
ラグナの問いに、首が上下に動く
「そう、か」
見渡した視界の先に巨大な機械が見えた
 

 
 
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