英雄と少年
(引っ越し)


 
一歩森の中へと足を踏み出す
足の裏に感じる柔らかな感触
じっと見上げる視線に気付いて手を伸ばす
「これで良かったんだ」
あの場所が壊されて誰もいなくなったのはずっと昔
それから長い間あの場所に彼等と居た
戻ってくるはずの彼等はどれほど待っても戻っては来ない
誰も入れてはいけない
ずっと昔、誰かが言った言葉
それを守ってきたけれど………
誰も来なくなってからも随分長い時間が経った
あまりにも長い時間が経ちすぎて
いろんなものが壊れた
外に出てはいけない
そう言った人は随分前に居なくなっていたけれど
外に出る代わりに彼等へと頼み事をした
この場所のことを思い出すかもしれない
誰かが戻ってくるかもしれない
期待は叶い
期待は裏切られた

忘れられた場所
随分時間が経ちすぎて、あの場所のことを覚えている人は誰もいない
あの場所のことを覚えている人も居なかったから、待っていることも忘れられた
そう教えられた
その言葉にショックをうけるのと同時に
納得した
待っている時間は長すぎて、皆があそこで何をしていたのか
あの場所に何があるのか
あの場所で何があったのか
様々なことを忘れてしまった
『まだここに居るのか?』
聞かれた言葉に途惑い
『ここに居なければならないって訳じゃないなら、外に出ないか?』
誘いかけの言葉に頷いた

もうすぐ森を抜ける
『行く場所なら提供するぜ』
そう言った彼が教えてくれた場所
この先で別の場所へと連れて行ってくれる人が待っている
忘れてしまったこと
知らないことを教えてくれる人が居る場所へ

森を抜けた場所で見たこともないものが待っていた
 

 

 
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