英雄と少年
(発表 SideS)


 
討伐を終えたモンスター
万が一の為、モンスターの情報は公開する
その事は既に決定事項だ
問題は事実を何処まで公開するのか、だ
倒したとされるモンスターが実は倒されていない
その事実は今の所スコールと風神だけが知っている
この情報は当然依頼者に明かすわけにはいかない
伝えるのはガーデン内部にのみ止める必要がある
問題は何処まで伝えるか、だが………
今後の事を考えれば本人達には当然伝えるべきだ
次も同じ様な幻覚に引っかかることは避けるべきだ
その他のSeeD達には―――
どうするかは、キスティスに任せよう
スコールは風神から提出された報告書へと視線を向ける
風神が調べ上げた詳細な状況
あの場所で起きた事
そして、幾つかの可能性
丹念に調べ上げられた報告書は風神が様々な事を知っている―――色々な事実に気付いている事を示している
必要最低限しか口にしない風神の姿が思い浮かぶ
「話した方が良いな」
現在解っている状況
あの場所に残された事実
全てを風神に話しても、他の奴等に漏らす事はきっと無い
スコールは書類を片づけ、通信装置へと手を伸ばす
「風神を呼んでくれるか」
機械の向こう側から了承の声が聞こえた

「何?」
いつもと変わらない様子で現れた風神へ
先日の事件の概要を話す
時折短く入る確認や質問の言葉
そして、残されていた古い施設
誰かがそこにいた痕跡
森へと迷い込んだ少年の言葉
「人………」
風神が考え混むような素振りを見せる
「我、把握無」
風神の話によれば、モンスターが歩いている姿を見たことはあるが、人の姿は一度も目にしては居ない
「我、モンスター逃走、無知」
「一人で全部を見るのは無理だ」
いくら風神が森を警戒していたとは言ってもあの広い場所を隅々まで把握するのは無理だ
スコールの言葉に風神が考え込む様な仕草をする
「森外、視界良好」
森の外、か
確かに数頭のモンスターと人が共に移動する姿は、森の外なら目立つ
「夜だったのかもしれない」
風神へと言い訳をしながら、スコールはそれがあり得ない事を知っている
あの時触れた機械はまだ微かに温もりが残っていた
あれは、直前と言える程近い時間ではないが、つい数時間前までは確実に居たという証拠
時間的に夜の内に居なくなったとは考え難い
「理解」
納得仕切れていない様子の風神が言う
納得、出来る筈がない
施設に居たときから違和感は感じていた
あの場を後にする時も疑いは抱いていた
居るはずのモンスター
そこに居た筈の人の姿
消えたタイミングは余りにも良すぎる
………不自然ではない
モンスターが村へと現れたタイミング
モンスターがセルフィ達へと行った行動
それが全て逃げる為
自分達に目が向けられないようにする為の行動だったとするのなら、あのタイミングで消える事は不自然ではない
そう考えられなくもない
だが………
スコールは緩く首を振り、息を吐き出す
「モンスターに対しては様子を見る事にした」
生き残りが居る可能性が有ると、モンスターの情報はバラム政府にも伝えている
バラムから各関連機関にも情報は回っている筈だ
「是」
「問題はあの建物だ」
スコールは意見を求める様に風神へと視線を向ける
風神の左手が左の頬へと当てられる
風神が考える時の癖
あの施設の事は対応が難しい
最近まで使用されていた古い建物
まだ生きている古い時代の機械
あの場所が何をしていた施設で
これらがいつの時代のものなのかは解らない
正確なことを知るためには専門的な調査が必要だ
遺跡を発見したからといって必ず報告しなければならない、等という決まりはない
必要性が感じられないのなら、そのまま放置したところでなんの問題も無い
………ラグナは知らない振りをするだろうな
場所が場所だけに、出てこられても困るが
何も言わずに居れば今まで気付くことが無かったのなら、これからも気付くことはないのかもしれない
「我、興味有」
突然ぽつりと風神が言葉を零す
真っ正面から風神と視線が合う
「………興味が有るなら行けば良いだろ」
スコールの言葉に風神の首がゆっくりと左右に振られた

バラムの奥地に古い施設が見つかった
バラムガーデンの発表にいち早く食いついたのはバラム政府だった

連日静かだった辺境の村には人が集っている
 

 
 
次へ その頃のラグナ