英雄と少年
(隠匿 SideL)


 
「彼の検査結果が出ました」
薄暗い部屋の中で彼女の声が響く
長い時間モンスターと共に生きてきたという彼
ラグナの感覚ではあの建物はセントラ時代のものでは無かった
だが、それなりに古い時代
いつから彼が存在しているのかは解らない
解らないが“人”が存在出来る時間以上の時間を存在していることは確実だろう
「………で?」
彼が“人”なのか、それとも彼女と同じ存在なのか、感情を乗せない彼女の声からは結果を推測することは難しい
「私とは違い彼は生きています」
無機質な声が淡々と告げる
生きている、か
「ですが、彼が何者であるのか、私には判断をつけることはできません」
彼女が差し出すデータへと眼を向ける
生きている
そう言った言葉通り、少なくとも身体には血肉が通っている
機械仕掛けという訳ではない
ただし、これが造られたものではないと言うことは出来ない
「………人だとは言えないか」
所々に示される人ではあり得ない値
「はい、ですが、彼は“人”でもあります」
データの中に示される人の値
なにより彼は長い間人として生きてきている
「………そうだな」
生き方や感情
人の定義がそこにあるのなら、彼も彼女も立派に人だと言える
「問題は………」
彼が示した人にはない特徴
「そちらの方は、オダイン博士が嘗ての“魔女”のデータと見比べています」
―――人間は魔法を使うことは出来ない
魔法を使うことが出来るのはモンスター
それは遙か昔から変わらない事実、だった
―――魔法を使うことは珍しいことじゃなくなった
確かに、今ではいろんなヤツが手軽に魔法を使ってはいる
だが、それは
―――疑似魔法は魔法とは違う
疑似魔法はどっかの科学者が人間が魔法を扱える様に研究したもの
厳密に人間が魔法を使っている訳じゃない
人間は魔法を使うことは出来ない、それなら魔法を使うことの出来る“魔女”は?
遙か昔から囁かれてきた事
“魔女”を目にした者が思うこと
“魔女”は異質な者
人が魔女を畏怖し、排除しようとするのはきっと本能だ
「彼の魔法が先天的なものであるのか後天的なものであるのは、それも不明です」
あの場所は魔法の研究施設だった
その可能性も高くなった
「それと、彼と共にいたモンスターであるという存在も、厳密にはモンスターとは呼べません」
「モンスターじゃない?」
「はい、そもそもモンスターの定義は、この地に存在するはずの無かった異質な者達の事です」
遠い昔、異界から現れた生き物
「今は、モンスターも混ざっちまっただろ?」
「はい、ですからこそ彼等はモンスターとは言い難い存在です」
………………
「原種なのか?」
ほとんど存在する事の無い、この世界に初めから居た生物
「いえ、純粋な原種とは言い難いですが、それに近いことは間違いないようです」
フィーニャがテーブルの上へとデータを置き、ラグナへと視線を合わせる
「それで、彼等には何処まで事実を話しますか?」
「解った事は話した方が良いんだろうな」
しばらく時間を置いた後、重い息を吐き出しラグナが答える
「全部一気に話すって訳には行かないだろうけどな」
「では事実確認が出来たことから順に話をします」
感情を込めない声が無機質に広がった

近頃オダイン研究所の人員が増えた
そんな話題が広がったのは、それから数ヶ月後の事
 

 
 
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