英雄と情報
(違和感 SideS)


 
モンスターの出没しない場所がある
何かの間違いじゃないか?
報告を受けて思った事だ
街の外を少し歩けば遠目に見えるモンスターの姿
世界はモンスターで溢れている
一緒に話を聞いた奴等もそれぞれ信じられないという顔をしていた
「どの場所だ?」
それが本当だと言うのなら見てみたい
そんな思いを抱いたのは必然
スコールの言葉を受けて他の者達も同じように確認したいと口にする
草原の中に残っているのは遺跡の残骸
点在する巨石だけがここに何かがあった事を教えている
「一度来たことがある」
魔女を倒す為の戦いの間
一度この辺を通った事があるはずだ
スコールは無意識のうちに眉を寄せる
あの時はどうだった?
思わず足を止め考えようとした所に、スコールに気がついたらしい人々が声をかける
「あんたは………」
見覚えの有る顔
確か会ったのはエスタだ
「オダインの所の?」
スコールが問いかけるのが合図だったかのように、遠く見える人の集団の中からオダインの声が聞こえる
「………いるのか?」
「この場所の事を聞いた途端飛び出して来ました」
オダインの助手であるはずのこの男は、心底困ったように曖昧な笑みを浮かべる
飛び出してきた?
ここははずれだとはいえ、ガルバディアの土地だ
「いいのか、それは」
「本当はダメだと思うんですけどね」
そう言ってどこか遠くを見つめるが、その一言で終わらしてしまって良いような事じゃない
「もう手は打っていると思いますよ」
ため息混じりの言葉と同時にオダインの方へとスコールを案内するように歩き出す
それと無理矢理ですけれどガルバディアには許可を取ってますから
そう小声で続けられた言葉にわずかに安堵する
そう言えば………
最後に戦闘を行ってから随分時間が経っている
周囲を見渡してもモンスターの気配は無い
「本当にモンスターが出ないのか?」
「誰一人モンスターの姿を見た者はいませんね」
スコールの言葉に真剣な目をした男の返事が返った

元々モンスターの調査を依頼してきたのはオダインだ
この場所でモンスターのデータを集める事が出来なかった理由は当然報告する義務がある
モンスターを寄せ付けない仕組みがここに有るというのなら
その仕組みを解明したいとそう思うのは科学者で無くとも当然の話
それがあればモンスターに襲われることは無くなる
オダインで無くともこの場所へ手がかりを探しに来るだろう
「ここは見ての通りただの草原でおじゃる」
興奮した様子のオダインが声高に説明をしている
「ここに何かがあるというのなら、地下以外はないのでおじゃる」
どこから調達してきたのか、地下を掘り起こす為の機材が持ち込まれる
「とりあえず掘るのでおじゃるっ!」
高らかに宣言するオダインを数人の人間が必死に止めようとしている
「オダイン博士の考えは間違ってはいないとはおもうんですけれどね」
大騒ぎを繰り返す集団から離れた場所で、数ヶ月前から一人で調査を行っていたという男が呟く
「地上の部分は調べ尽くしたんです」
スコールの問いかけの視線に律儀に答えを返す
ずっと一人で調査をしてきたという男は一度もモンスターの姿を見かけたことは無いという
「確かにモンスターに姿は見られませんね」
突然背後からかけられた声にスコールはゆっくりと振り返る
オダインの側を離れ一人あちこちを見ていた筈のフィーニャが戻ってくる
「きっと、ここには何かが有るのでしょう」
スコールはゆっくりと辺りを見渡す
モンスターの姿は無く
気配も感じられない
草原の中に残された遺跡とも呼べない場所
以前に通った事のある場所
「だが、ここにはモンスターが居たはずだ」
小声で呟いた言葉にフィーニャが小さく反応した
戦闘の記憶が残ってる訳じゃない
この場所で特別な事を思った記憶はどこにも無い
残されている戦闘の痕跡は新しくはないがそれほど古いものではない
「そうであればたまたまという事も考えられますね」
そう言い置いて、フィーニャはオダインの元へと向かった

 
 
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