英雄と情報
(惨状 SideL)


 
モンスターが流した血の匂い
微かに香る硝煙
夜の闇に浮かぶ辺りの様子はひどいものだ
今は逃げ出したモンスターも、そう時間をおかずここに引き寄せられてくるだろう
ラグナは周囲に転がるモンスターへと視線を落とす
「ここいらに居るヤツか?」
尋常では無い数のモンスター
倒れたモンスターの種類は複数に渡るが、特別力が強いものはいなかったように思う
似た種類が多いってことは、元々この辺りに住んでいたやつらが集まったって考えるのが筋
「おかしな奴は混ざってはいない」
なら、この辺りに元々居た奴等ってことだろうな
どういった作用が働いたのかは解らないが、ここから排除されていたモンスターがこの場所に戻った
たまたま戻った時間が重なったのか
何か他に理由があるのか
「しかし良くここまで集まったな」
何十体ものモンスター
とても多い数という訳ではないが
普通モンスターが集団で行動する事が無い事を考えればこの数は充分驚異だ
ここの調査は当分ストップするだろうな
オダイン達は勿論
ここに元から居たっていう学者もこの状況で調査の続行をすることはない筈だ
ラグナはモンスターの身体の下にある石柱へと視線を向ける
「さすがにオダインも諦めるだろうな」
背後から感じるスコールの視線にラグナは大仰に肩を竦めて見せる
「良いことなんじゃないのか」
「この状況になんの文句も無ければな」
調査から素直に手を引く、その理由にはなるが、何も言わず素直に従うってのはオダインのキャラにはあわない
現状に対して何らかの文句を言う事になる筈だ
本人もおもしろがっているところがあるから、なかなか面倒なんだよな
本気で言っている訳ではないだろうが、きっと長く続くだろう時間を思い気が重くなる
ラグナの言葉にごねるだろうオダインを思い描いたのか、スコールも納得したような顔をする
「………今の内に帰るか?」
今この場で出来る事は無い
ここを調べる事も、調べられるような対象も無い今、ここに用は無い
「押しつけるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどなぁ?」
スコールの視線にラグナは口ごもり、
そういや、オダインを迎えに来たんだったな
会った時の会話が思い浮かぶ
文句は言うだろう
抵抗もするだろう
だがそれは納得した上での演技だ
「なんかエサでもあれば良いんだろうけどな」
ラグナは足下に転がるモンスターへと視線を落とす
「………モンスターを持っていったらどうだ?」
スコールの言葉にまじまじと顔を見る
「モンスターの採取」
端的に言われた言葉でSeeDへの依頼の内容を思い出す
そもそもここに目を向けたのはモンスターの調査を依頼した為
その依頼をしたのはオダインってことになっていたな
「そりゃ手かもしれねーが、オダインもここに来るんだぜ?」
あの依頼が本当にオダインが出したものだったのなら話も違ったのかも知れねーけどな
決してスコールには言うことが出来ない事を思う
「ま、どっちにしろ、ここにいたって仕方ないしな」
ラグナはもう一度辺りへと視線を向ける
フィーニャに見せられた仕掛けはラグナの目には見えない
もし、人に見えるものだったとしても、今はそれも解除されてる状態だろうしな
モンスターを乗り越えるようにして歩き出す
ここにある仕掛けがどんなものなのか、その端っこくらいはフィーニャがつかんでるだろう
それにどうしても知らないとならないものじゃないしな
ここは既に無くなった場所だ
モンスターを近づけないという技術もあれば便利だが、なくともどうにかなる
………多分な
欲しいと思う気持ちを上手くごまかして、ラグナは遺跡を囲み倒れ伏したモンスターの外へと出る
後を追ってこない気配に背後を振り返る
「スコール?」
のんびりとかけた声に返事は無く、ただ片手が横に振られた
 
 
 
次へ その頃のスコール