英雄と少年
(捜査 SideS)


 
遺跡から一番近い場所にある村
エスタの調査員達が滞在していた場所
遺跡の側には広範囲に渡って草原が広がっている
さほど強いモンスターも居ない土地
集落を作るのに絶好の条件が揃っている
にも関わらず、この村はそこからかなり遠い位置にある
本来なら疑問に思うべき所
地図上で見る分には不思議には思わない
こういった一見住みやすそうでありながら、実は様々な条件が重なって危険な所はあるからだ
だがここは、実際に訪れてみれば違和感を感じる
条件の良い筈の場所に存在しない村
村に付随する牧草地も畑も、草原とは逆の方へと作られている
スコールは村を回りようやくその事に気がつく
―――何かある
ただの残骸だと思われている遺跡
あの場所はここに住む彼等が警戒する何かが存在している
話を聞いてみるか
ここに住む村人なら、何らかの理由を知っているだろう
スコールは道の端に立ち、村の様子を見渡す
のんびりと歩く人々の姿
どこにでもある田舎の村の光景
転じた視線の先に、いくつかの宿とバーが見える
情報を集めるのなら、人が集まる所、酒のある場所
SeeD教育の一環として教えられた言葉
まだ周りは明るい
辺りを歩く人々ものんびりはしていても決して暇そうには見えない
役に立つような人は誰もいないだろう
スコールは宿へと足を向けた

「モンスターが発生するんだよ」
吐き捨てられるように告げられた言葉
あの遺跡に何か問題があるのか
そう聞いたスコールへ返事は簡単に返った
あの場所には定期的に大量のモンスターが発生する
日頃は大したことのないモンスター達もその時だけは何故か凶暴化する
いつもならば食い食われるの関係の者達が、互いの存在には目を向けずあの場所で闊歩する
「そんな話は聞いた事がないな」
モンスターが大量に発生するとならば、近隣にも噂話程度にでも広まるはずだ
モンスターが出現するというのならば、討伐依頼が出されても可笑しくない
だが、そう言った話は全く聞いた事が無い
「あの場所に近づきさえしなければ悪さもしないからな」
それが常識と成っているのか、酒を飲んだ男達が吐き捨てるように言う
「そう頻繁に起きる事でもない」
短期間の内に起きる出来事では無く、数年に一度、もしくは十数年、数十年に一度起きるモンスターの大量発生
期間はまちまちで村人の誰にも予測がつかない
かつて、数十年の期間が空いた際、あの場所に村を作ろうとした事があったらしい
村は村としての形が出来る前にモンスター達の襲撃にあった
過去に幾度か起きたという出来事
それはこの村の人々の間に代々受け継がれ
あの場所に近づこうという者は滅多にいなくなったという
「先日もモンスターが出たって言うだろう?」
村人達にとってはそれもいつか起こるはずのもの
あの土地の事は惜しいという気持ちはあるが、あそこをどうにかしようという気持ちはないらしい
「モンスターがいつ頃出たのか、記録なんかは残っていないのか?」
スコールの問いかけに幾人かが顔を見合わせる
「そんな物好きはいたか?」
彼等の言葉を総合すると、聞いたことが無いという事だ
「それなら、誰か詳しい人はいるか?」
「詳しいっていっても、大体の所までだと思うぜ?」
困惑したような男達を説き伏せ、スコールは話を聞きに出向いた

決まった期間は無い
ただ何かの切っ掛けでモンスター達が大量に発生する
発生したモンスター達は一様にあの場所を目指し
ただ、あの場所に落ち着く
村人からの話で知り得た事はこの程度だ
だが、先日モンスターと戦闘をしたからこそ知っている情報が一つ
あの場所に集まってきはするが、なにが何でもあの場所に向かおうとする訳ではない
あの場所にどうしても留まろうと動く訳でもない
モンスターが遺跡へと向かう条件は無いのか?
詳細な記録をしていた訳では無く
ただ、モンスターが出た事を語り継いだ情報にはモンスターが発生した時の状況の説明はいっさい無かった
情報を集めなければならない
あの場所にはきっと、何かが残っている
根拠が有る訳では無いただの直感
何かを探し出そうと決意するのと同時にふと浮かぶ疑問
気づいて居るんだろうか?
浮かびかけた顔と声を振り払う
どうやって情報を集めようか
深い闇の中で思考を巡らせた
 

 
 
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