英雄と敵
(報告 SideL)


 
持ち込まれた映像の再生が終わる
「昨日の映像との比較はできるか?」
山からの土の流出が終わった
そう話しをする村人の姿
早速行動しようとする学者達の姿
そして映し出される山の姿
「はい、昨日の映像と比較します」
確かに目で見た限りでは変わりは無い様に見える
だが人の目なんて物は曖昧な上、ほんのわずかな差を見抜く事はできない
フィーニャの言葉と同時に丁寧に二つの映像が並べられる
同一距離、同一方向から見た光景
「重ね合わせます」
声をかけるよりも早くフィーニャが二つの映像を重ねあわせる
「あんまり変わったようには見えないな」
ぴったり一致する
とまでは言えないが、変わりはない様に見える
「はい、分析結果を見てもほぼ一致すると言えます」
フィーニャの目で見て一致するというのなら、変わっていないと見て問題無いんだろうな
その点に関しては、問題は無いだろうが
「作業が終わったとは言い難いな」
土を無くし、塔を出現させる
今までは命令に従いその作業をしている様に見えた
「はい、作業が完了したとは言い難いです」
だが作業が止まった様に見える今日の状態は、だいぶ土が消え姿が現れてはいるが、全体が露出しているとは言い難い
隠していた山を消去し、隠されていた塔の姿を露出する
昨日まではその為の力が働いていた
様子を探った結果導き出された結論に間違いは無い筈だ
それが、中途半端に止まった
ってことは
「壊れたか?」
「緊急の停止命令が下ったとも考えられます」
確かにその可能性もあるな
「もしそうだとしたら、次はどうする?」
停止命令が出たとするのならば、停止した後はどうする?
「いくつかのパターンが考えられますし、停止の理由がどんな事なのかにもよるかと思います」
ああ、確かにその通りだけどな
「ですが確率的に、別の行動への変化、または元の状態へと戻るの二つがあげられます」
まぁ、それが順当な所、なんだろうなぁ
「変化はどうなるか考えても無駄だろうが、元に戻るっていうのはな」
出現した塔がまた埋まっていくっていうことだろ?
どういう手段で埋めるのかは解らないが
「危ないよな」
不用意に近づいていたりすれば巻き込まれる事になる
「そうですが、どの様な作業に移行したとしても危ない事に変わりはないと思われます」
それも移行内容によるだろう
中断されて実行される作業は必ずしも危険なものだとは限らない
「どっちにしろもう少し経過を見守る必要があるよな」
昨日までの動きは止まったが、すべての動きが止まったとはまだ言えない
どうなるのか予測が付かない所に突っ込んで行く様な勇気はないからなぁ
「ええ、結論を出すにはもうしばらくの時間を取った方が良いと思われます」
どっちにしろ当分、あそこに手を出す気はないけどな
映し出されていた映像が消える
幾つか話を終えて、フィーニャが退室する

ガルバディアの“塔”の件が書類として紛れ込む
「さて、コレを提出した者は、いったい何が目的なのか」
調査に出向きたいと言うのか
それとも、この件に手を出せとでも言いたいのか
この時点ではただ事実を書き記しただけの書類にキロスは意地の悪い笑みを浮かべる
あの場所についての報告は既に受けている
古い建物である事
面倒そうな代物である事
現状、エスタとしてはあの場所に手を出すつもりは無い事
「ま、どちらにしろ楽しい事になりそうだ」
書類を手にキロスはラグナのもとへと向かった

 
 
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