英雄と敵
(確認 SideS)


 
連日崩れてきていた土の流れが止まった
キスティスからそう連絡が入ったのは、午後からの事
今朝方には止まっている事は判明していたが、今まで様子を見ていたらしい
そしてこのまま引き続き明日まで様子を見る
そう伝えてきた
「解った」
キスティスの言葉は決定事項だ
そして、その決定には反対する要素は見当たらない
せいぜい
「気をつけろ」
そう一言を添える位だ
「ええ、充分気をつけるわ」
けれどようやく依頼を終了するチャンスだから、多少の無理はするかも知れないわね
笑顔で告げるキスティスにスコールはかすかに顔をしかめる
だが、ソレも仕方がないか
予定より───その予定からして長すぎるんだが───時間がかかっている
これ以上その依頼に時間を掛けるワケにも行かない
それと、詰めかけている奴等の対処もそろそろ限界だという話だ
“気をつける”
その言葉を信じるしか無い
「何かあったら、連絡を」
「解ってるわ、その時はお願い」
何かあった場合の緊急の連絡
最近設備として導入されたソレは、任務中のSeeDが直接ガーデンと連絡を取るとの出来る機械だ
以前とは違い、何か不測の事態があった場合でも、すぐに指示を仰ぐことが出来重宝されている
この場合は、指示を仰ぐというよりも救援要請の為に使われるだろう
「連絡が来ないことを祈っている」
スコールのその言葉を最後に通信は切れた

「それじゃあ、行きましょう」
崩れた“山”の姿を正面に見ながらキスティスは彼等へと声を掛ける
むろん、もしもの場合に備えて村に連絡要員として数名のSeeDを待機させている
何かがあれば自分達からも連絡は入れるつもりだが、彼等にも適宜判断してもらうことになる
「1時間から2時間毎には連絡を入れるわ」
何があっても、なくてもも必ずその周期で連絡を入れる
もし、その時間帯に連絡が無かった場合は、彼等に行動してもらう事になる
とは行っても、実際の行動はガーデンに連絡をすることでしょうし、そちらの心配は無いわね
後の事を任せ、キスティスは荒れた山へと足を進める
問題はこっち、ね
以前、山だった時は堅くしっかりとした土だったはずの物は、今は柔らかくぬかるみ足が取られる
まるで、全く別物に置き換わったみたいだわ
キスティス自身はかつてここに在った山に足を踏み入れた事は無い
けれど、かつてこの地に足を踏み入れたSeeDが残した報告書には目を通した
報告書に目を通した限りでは、山土はしっかりとしていて、崩れる心配は無かったはず
………既に崩れてるんだもの、情報は宛てにはならないわね
こんな風に崩れ落ちている場所にしっかりした足場も何も無いわ
頑強だったはずの山が突然崩れだした理由も不明
───理由の解明は彼等がしてくれるのでしょうけれど
今解るのは、危険だっていうことだけ
「足を取られないよう、気をつけて」
もう少し動きやすい靴にするべきだったかしら?
後に続く彼等へと声を掛けながら、キスティスはふとそんな事を思う
泥の様な土に足を取られながら、ゆっくりと斜面を登る
長い時間を掛けてようやく斜面を登り切る
「ここまでは危険は無かったわね」
全く危険が無いなんてことは無い
足を滑らせれば充分に危険
土に足を取られれば、多少の差はあれども怪我はする
ただ、崩れ落ちる土に巻き込まれたのかモンスターの姿は無かった
そして、ここに至るまで何らかの仕掛けの様な物も存在していない
何かあるはずなんでしょうけれど
普通では無い山の崩れ方
普通では無い土の消失
考える間でも無く、ここには何か仕掛けがあるはずだわ
「さあ、もう少しよ」
警戒しながらも、キスティスは何の心配も無いかの様に振る舞う
「はいっ」
元気の良い返事とともに、キスティスはまだ遠くに見える“塔”を目指した

 

 
 
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