英雄と敵
(視線 SideL)


 
示された幾つもの資料
“彼女”の手により書き込まれた幾つかの推測
残されたモノ
“セントラ”とも”エスタ”とも違うモノ
遠い昔、そして最近分析されたデータ
そして“彼”の存在
それらの情報を元に導き出した推測
「既に失われている、か」
さりげなく交わしたという幾つもの会話
慎重に探られた情報
“ほぼ間違いない”
その言葉と共に導き出された結論
彼は―――彼等はすでに忘れてしまっている
自分達が何者で
自分達が何をしていて、何を目標としていたのかを
彼等は世代を重ねる内に忘れてしまっている
―――それもまた当然
空を仰ぐ
今は建物に阻まれ、見ることは出来ない月
蒼くざわめく月の姿
―――その中に蠢くモンスターの姿
かつて、間近に目にした光景
あの景色を思い出すたびに、言葉もまた思い出す
月はモンスターの世界
月の表面で蠢くモンスター、あの中で“ヒト”が共に生きることは無理
あの場所は“ヒト”の住む土地では無い
初めて目にしたその時にそう“理解”した
提出された幾つかの資料を投げ出す
彼女の手により書かれた推測、導き出された結論
それは、もう何年も前から“エスタ”で示されている結論
それでも―――
「一度中身を見てみたいな」
今となって姿を現した塔
あの塔が担っていた筈の役割
つけっ放しの画面に、あれ以来動きを止めた塔の姿が映し出されている
動きを止めた理由も知りたいしな
映像の中に遠巻きに群がる人の姿が見えた

 

 
 
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