英雄と敵
(思惑 SideL)


 
ガルバディアの出身だから、向こうの態度もましだろう
そんな言葉と共に決定した人事
研究者である自分としては、古代建造物に調査にあたるなどという滅多に経験することのできない役目を与えられたことは喜ばしいことだ
だが私は新参者であり、こんな重要な役割を与えられるような立場にないことは理解できている
知識も足りない上に、さまざまな技術を使うことも出来ていない
だというのに他国へ派遣される調査員という役割を与えられたのは
“塔”の調査をさほど重要視していない
それか
単なる“つなぎ”としか認識されていないか
そのどちらかだろう
重要視していない
実のところ、その可能性があるのかどうかも良く分かってはいない
先頃頻繁に“塔”のニュースが研究所内でよく流れていたことは知っている
たまに話題にもなったがそれも世間話程度のこと
研究の対象となっているのかどうかもわかってはいない
今までの様に好き勝手に調べれば良いと言う訳ではないのだろうが、調査員として選ばれたのは当然私だけではないし、ガルバディアとの兼ね合いもある為、現地に行かなければ実際になにが行えるのかはわからないようだ
よって、今の段階では“何”を調査するべきなのかの指示は出ていないが
「どちらにしろ、言われたことをやるだけか」
そういった面倒なことを考えるのは、上司の役割だろう
取り留めのないことを思いながら、荷物をまとめた

新しく取り付けられたらしい明かりが辺りを照らしている
危険なものは排除した
そう説明された“塔”の内部を恐々と歩く
大統領も無事に通過したという入り口
そして問題の部屋
念入りな調査が終わったからと言って、絶対に安全だとは言えない
大統領が訪問したあの時も、調査は終わっていて安全だと判断されたのだから
古い技術が使われた場所
この場所はきっとセントラの技術が使われているだろう
セントラの技術なら、罠を見つけられなかったことも理解できる
セントラの技術が使われているのなら何がおきても不思議はない
私のほかの調査員はもちろん、案内役のガルバディア側の調査員も慎重に足を進めている
部屋の中へ全員が足を踏み入れた
誰もが緊張し油断なく辺りを見つめている
時間が経過する
「大丈夫なようですね」
案内役がこっそりと呟いた言葉が聞こえたが、その内容を追求するようなことはしない
此処はセントラの遺跡、何がおきても不思議じゃない
何事も起こらない事を確認し、改めて室内へと目を向けるが、特筆すべきものはどこにも見当たらない
ただ、反対側の壁に扉が見えるところを見ると、そちらが目的の場所なのだろう
案の定、もう一つの扉へと誘導される
勿体ぶった仕草で扉が開けられる
安全を確認する為か先に扉の中に入った彼の後を追って私達も次の部屋を覗き込む
「これはっ」
息を飲む音が聞こえる
どんな役割をするのかは分からないが、部屋の中に設置された機械が見える
「………これは発見された時のままですか?」
強張った声が質問する
「何がどんな役割をするのか、まだ解明していませんからね………」
話を聞けば調べてはいるが、移動するなど手を加えることはしていないらしい
あの日、この部屋の様子を大発見として発表するつもりだったのだろう
それはアクシデントにより先送りとなったようだが
「ありがたい限りだ」
エスタから共に派遣された同僚がこっそりと呟く
確かにこれがお披露目なら、私達が調べることは出来なかった
だが、こうして調査員である私達に案内したとなれば、ある程度なら調べることもできるはずだ
「それで、ここの調査はどの程度進んでいるのだろうか?」
質問の声と同時に、幾人かが早速機械の傍へ寄る
「こちらの機械は………」
同僚達のざわめきに説明の声がかき消された

 
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