英雄と敵
(推測 SideL)
変装でもしますか?
問いかけられた言葉はひどく魅力的だった
半ば本気で実行しようと思ったんだが
「無理だろうからな」
大きな声で言えることじゃないが、人を誤魔化すのならいくらでも手段がある
だが、あの場所の“敵”は人じゃない
どこまで機械を―――それも高度な性能を持った機械だ―――誤魔化すことが出来るのかわからない
鮮明な映像が映し出される
リアルタイムで送られてくる“塔”内部の様子
優秀な補佐官達の活躍で、派遣したエスタの調査員達にエスタ軍の護衛をつけることができた
身に着けた隠しカメラの映像が、内部の様子を綺麗に映し出す
気ままに動き回る調査員達に振り回されている
聞こえてくる会話によれば、他の奴らにはそんな風に見えているらしい
実際は調査員の動きも、護衛たちの動きもこちらからの指示
好き勝手バラバラに動いているように見せているが、指示に合わせて組織的に調べているに過ぎない
目くらましも兼ねて、好き勝手に動いているのもいる
「やはり隠し部屋があると思われます」
階を上がる度に見つかる新たな発見
動く機械の数々に注目が集まると共に、新たな発見として研究者達の歓喜の声が聞こえていた
世間の動きに合わせて派遣した調査員達も喜びの声を上げていたが、実際は特に目を引くような発見はないらしい
“エスタ”としても必要な情報が集まってはいない
「上ってことはないだろうな」
隠し部屋がスペースの限られた上階にあるというのは考えにくい
「ええ、柱や壁など小部屋といえど設置するスペースもありません」
ただ、通路ならば可能性はあります
「可能性があるとすれば地下か」
塔の調査当初から存在が疑われていた場所
当初から探しているが未だ発見されていない所
「1階部分に疑わしい場所はありませんでしたから、2階以上に入り口があるのではと推測されます」
現在判明している内部構造が表示される
塔の中心部分に柱の一つでもあればそこが疑わしいんだろうが、そんなものは一つも無い
むしろ、極力さえぎるものが無いよう場所を空けてあるように見える
「上階に行くほど場所がありませんから、調べる範囲は狭まりはするのですが………」
それとなく調べてはいるが、手がかりは無い
「何らかの技術が使われている可能性も有ります」
進展しないまま、報告が終わった
幾度か代わり映えの無い報告を受けた
あるはずの場所が見つからない
「これは内部には入り口が存在しないと思われます」
現在の“塔”の外観が表示される
一部を除いて未だ土に埋もれたままの状態
「この中にもう一つ入り口があるのではないかと推測されます」
入り口が発見された時点で塔の発掘作業は終了している
発見された入り口が本来の入り口なのかは分からない
「この中にあるのが地下ではなく1階である可能性もあります」
映像が遠く引かれる
遠くからみれば塔周辺は起伏が激しい
確かにこれなら可能性はあるだろうが
「どうやって探すんだ?」
これがエスタにあるのなら、掘り起こせば良いだけだ
「秘密裏に掘り起こすのは事実上不可能です」
地下がある
その前提で話を進めているが、それも証拠がある訳じゃない
ただ、そうだろうという推測―――そうであれば良いという希望だ
「外からが無理なら、床をぶち抜くしかないだろうな」
行動が派手な分秘密裏にってのは無理だろうけどな
ため息交じりの言葉にフィーニャがラグナへと視線を向ける
「その手がありましたね」
案外真剣な声に微かな不安を感じた
次へ その頃のスコール
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