英雄と夢想家
(突入 SideS)
決められた時間が経過する
「よし、行くぞ」
タイミング良く発せられた声に自然に身体が動く
目の前に開ける空間
それほど大きくもない洞窟の入り口で立ち止まる訳にも行かず、スコールはそのまま中へと突入した
「……な…………」
見張りだろう男達の姿が目に入る
彼等が言葉を発しようとしたその時には、身体が動いていた
崩れ落ちる身体を避け、さらに奧へと進む
狭い、狭い通路
いつどこから何が飛び出して来るか判らないこの場所で、のんきに待機する訳には行かない
何より、ここで順番を入れ替える事は困難を極める
後がうるさいだろうが、このまま進むしかないな
幸い、敵と出会うこともないままスコールは先へと進んだ
洞窟が広くなった道の分岐点
ようやくスコールは足を止め
しばらく後に現れたラグナと合流することが出来た
「人気が無いな」
合流してからずっと無言だったラグナが不意にそう言う
「………………」
確かに洞窟内は静まり返っている上、人の気配もしない
不気味だな………
極端に人の居ない洞窟
何か計画を実行しようとしている最中なのか
それとも、この方向には人が居ないだけなのか、判断がつけにくい
スコールは、足下へと視線を移す
人が通ることにより、なめらかに踏み固められた道筋
……この隠れ家が出来た時代によるが、人数が足りない訳でもなさそうだ
そして、不意に洞窟は人工的なモノへと変わった
コンクリートで作らた頑丈そうな建物
扉から一直線に続く廊下があり、左右の壁には扉が並んで居る
無機質な空間からは、人が生活している気配は感じられない
まるでどこかの研究施設みたいだ
「これだけの技術は持ってるって解釈すれば良いのかな?」
不意に聞こえるラグナの言葉
「……そうでも無いだろう」
多少の技術は必要になるかもしれないが、有る程度までならば、力が有れば作る事ができるはずだ
別にラグナも本気でそう思っていた訳ではないらしく
特に反論を返す事無く、黙って歩いている
……………いったいどうなっているんだ?
この付近からは、人の気配以前に生き物の気配が感じられない
もちろん警戒をゆるめている訳では無い
辺りの気配を探っていない訳でも無い
ただ感じるのは、まるで圧迫される様な濃厚な土の気配
感覚を研ぎ澄ませば研ぎ澄ませるほどに強くなる、生き物以外の気配に、感覚がおかしくなりそうだ
……ラグナは何も感じないのか?
スコールは足を止め、後ろを歩いているはずのラグナを振り返った
目に映ったのは、数メートル先で足を止めたラグナの姿
1つの扉の前で足を止め、ノブに手を伸ばす
……見落としたのか?
スコールの内面に微かな動揺が走る
ラグナの腕が扉を引く
………………
腕の筋肉が、扉を押し、引く
何度か繰り返される仕草
……まさか
スコールはその可能性に気がつき、近くの扉へと手を掛ける
動かない扉
「偽物みたいだな」
予測していたといった感じのラグナの声
「こっちも同じだ」
開かない扉
ここにある総ての扉が開かないのか?
扉に触れ、確かに向う側には空間が存在しない事が判る
……なんの為にこんなモノを作ったんだ?
「……行くか」
気持ちの良い物じゃないな
整然と描かれた扉の数々に、スコールは嫌な予感がした
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