英雄と夢想家
(説得 SideL)


 
広い部屋
艶やかに飾り付けられた色彩が、どこかもの悲しさを感じさせる
青ざめた顔をした、数人の男
そして、2度の映像で見た女性の顔
「どこから!?」
たちまちの内に緊張感あふれる空気が辺りに満ちる
「ちゃんと、玄関から訪ねて来たんだけどな」
彼等の疑問をはぐらかす形での返答
「どこにも人が居なくて困ったぜ」
無人の廊下、無人の部屋
当初の予定通り途中でスコールと別れたが、どういう訳か俺は誰とも会うことなくここまでたどりついた
他の所に人が行ってるのか
それともここに集まっていたからなのか
不慣れな手つきで構えられる武器の数々
とりあえず話し合いに来たんだが、ソレを言う余地も無さそうだな
代表者で間違い無いのだろう、例の女性を庇うように数人が前に出
鋭い音と共に、銃弾が近くを通り抜けた
はずすつもりだったのか、当てるつもりではずれたのか、判断がしにくいな……
のんきな事を考えながら、鞘に入れられたままの剣をさりげなく握り直す
後方で小声の相談が行われている
軽く1歩足を踏み出す
慌てて引き金に指をかける姿が目に入る
そして背を押し出される様にして、逃げ出す女性の姿
他の奴らはともかく、逃げられる訳には行かないんだけどな
当たらない銃弾
ラグナは、一瞬の内に間合いを詰め
鞘から剣を抜くことなく、彼等を殴り倒す
声を上げる事無く倒れた仲間の姿に慌てふためく彼等の様子が、一度も戦いをした事の無い人間ということを物語っている
本当なら、喜ぶべきなんだろうな
戦いに身を置く必要が無かった
命の危険にさらされる事が無かった事を
「お、お前」
ふるえながら、銃を構える男の手
「争いを仕掛けたのなら、予測できただろう」
自分の身に同じ事が降りかかる可能性
人の命を奪うならば、自分の命が奪われる可能性がいつでもあるんだぜ?
「ぶ、部外者には関係の無い事だろう!」
悲鳴の様な声と共に、振り下ろされたマシンガンを左手で受け止め、腕をひねり取り上げる
「関係者なんだけどな」
立ちふさがる人々の間をすり抜けながら剣を腰に納め
通路の先に逃げた女性の後を追う
「待てっ!」
背後から聞こえる男達の声
振り向きざま、通路の入り口付近、男達の足下へマシンガンを乱射する
ひるんだ隙に、投げ込む手榴弾
彼等は悲鳴と共に、通路を離れ散っていく
通路の内側での爆発、同時に、周囲の壁が崩れ落ちる
無謀につっこんで来る奴が居なくて助かったな
危険の度合いが判断出来ない素人でも、危険だと目に見えてわかるものを選んだのは正解だった様だ
これで多少は足止めになると良いんだけどな
砂塵が広がる中、ラグナは背後を振り返る事無く奧へと向かった

背後に扉、正面には複雑な鍵の掛かった隠し扉
開かない扉に必死で取りすがっている彼女の元へラグナは追いついた
「………なぜ私達の邪魔をするの?」
正面から向き合ったままの長い時間が過ぎ
静寂に耐えかねたように彼女が口を開いた
なんで、か
なんでって聞かれてもな……
「身を守る為」
ってのも理由の一つ
「あなた………」
「ようやく復興してきた国を簡単に破壊される訳にもいかないしな」
近づいた分だけ逃れようとしてか、彼女が移動する
「……エスタの人間ね」
その瞬間、おびえを含んでいた表情が一変する
「私達の国を奪い取った人間が何を言うの!?」
鬼気迫る表情
「セントラはあなた達の所為で滅んだのよ!」
セントラが消失した理由は100年前の月の涙
……こんなこと子供でも判って居るんだけどな
そして、それに………
「セントラが無くなったのは何時なのか判っているんだろ?」
一切感情を込める事のない淡々とした言葉
さっきの放送で、言っていたもんな
「それがなんだって言うの!?」
……気がついて居ないんだな
「エスタが建国何年になるか知っているか?ドール帝国がどれくらいの年月存在していたか知っているか?」
それにセントラの“遺跡”が遺跡として発掘された年代も、知らないだろう?
「どういう意味、エスタがセントラの技術を奪い去ったことは……!!」
「100年前、既にセントラという国は存在して居なかった、月の涙で避難したのはセントラの大地に住んで居た人々だ」
100年くらいの年月で伝説にはならない、遺跡は作られない
まだその存在を知っている人がいる限り、そんな風に風化される事は無い
「エスタもドールも古い国だ」
セントラから移住した人々が作り上げた国
それは確かに間違いが無い
だが世間一般の人々が思っている年代が、違う
実際100年ほど前にも、住民の流出が行われた事が原因の一因なのだろう
エスタ以外の人間は案外知らないんだよな
ラグナの口元に浮かぶのは小さな苦笑
「エスタは建国200年はとうに過ぎてるんだぜ?」
エスタには、膨大な数の資料が保管されている
建国当初のモノから、古くはセントラ時代の文書まで……
「……そんなはず無いわっ」
首が激しく振られ、呆然と見開かれていた目が、鋭さを帯びる
「認めない、認められないわっ!!」
狭い室内に彼女の絶叫がこだまする
「セントラは、セントラの遺跡は、私達のものなのよっ!私達が、お祖母様が最後の民ですものっっ」
心の底からの、悲鳴
「……遺跡、なのか?」
ラグナの声が、不思議な程強く響いた
「なんでセントラの“遺跡”なんだ?」
そこに暮らしていた人間は“遺跡”なんて言葉は使わない
……使えない
再び、その場所で暮らすことを願っていたならば尚更だろう?
とまどった様な、彼女の目
そして…………………
「ダメよ、信じない、信じられないわ」
か細い声がこぼれ落ちる
女性に向かってラグナの足が一歩踏み出され
「信じる訳にはいかないの」
異様な程冷静に声が告げた
「!!」
直感が伝えた予感がラグナをその場所から大きく退かせた
振動と共に地面が崩れる
そして、現れたのは古ぼけた機械兵
「私達がセントラの後継者だって、証明してあげるわっ!!」
彼女の声に答える様に、機械兵が動き出した
 
 
 

 
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