英雄と夢想家
(決着 SideL)


 
外観に似合わない鋭い攻撃
振り下ろされた機械の腕をさけ、ラグナはマシンガンを投げ捨てた
……頼むぜ
心の中でささやき掛けた声に反応し、構えられた剣から鞘が消えていく
鋭さを増し、肉厚に変わる刃先
刀身が不思議な輝きを帯びる
「……何?」
女性の声が小さく聞こえる
けれど、機械兵は、疑問を持つことも恐れを抱く事も無く、淡々と攻撃を仕掛ける
ラグナが交わすたびに増していくスピード
ラグナが受け止めるたびに重くなる一撃
学習するってことか…
やっかいな相手
もしここで不用意に攻撃をしかけ、交わされる事があったならば、それをも学習の対象になってしまうのだろう
うかつな事は出来ないな
そして反応を見る為の攻撃をする事も出来ない
確実でなければならない、か……
ただ一度きり
やり直すことの出来ない瞬間
前もこんな事があったな
……前の方が厳しかったな
この相手は、一度攻撃を交わされ学習されたとしても、それ以上の攻撃を仕掛ければ大丈夫だ
だが、一度だけの、一瞬だけのチャンスだった事が確かにあった
ラグナは機械兵から距離を置き、間合いを計る
『なぁ』
偉大なG.F.の王へあてた
『刀身の長さって変えられるか?』
心の中での問いかけ
『可能だが?』
脳裏に浮かぶ、長さのイメージ
『合図したら、頼む』
探る様に近づいてくる機械兵をじっと見据える
チャンスは一度
剣を握り直し構える
機械兵が見せた、わずかな瞬間の停止にラグナは足を踏み出し、懐に飛び込む
『今だっ』
思ったその瞬間、変化を見せる刀身
腕に掛かる負担
確かな手応えと共に、切り裂かれていく機械の感触
火花を散らして、機械兵が崩れ落ちた

静かに交わされた会話の後の長い沈黙
「………本当はどこかで気づいていたわ」
寂しげな声が告げる
「でも……………」
静かな声
ラグナは言葉を挟む事無く、ただ聞いている
握りしめていた女性の手が開かれる
「これは、あなたにお返しします」
手の平の上に現れたのは1本の古風な鍵
……返す?
ラグナの怪訝そうな顔に気がついたのか、彼女は微かに笑う
「それは“セントラの鍵”」
宙を舞い、ラグナの手に鍵が渡る
「……でも、私はそれがなんの為にあるものなのか知らされてはいないの」
遠く洞窟内に爆発音が響く
……スコールか
打ち合わせ通り、巨大な兵器を破壊した音だろう
気がそれたのはほんの一瞬
「…………ごめんなさい」
聞こえた小さな声
「!おいっ!」
崩れ落ちる土壁の中に女性の姿がかいま見えた
 
 
 

 
 
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