霊厳夜話
 
 

第2話 御城八方正面(やぐら)の事

1、問 御城内には、八方正面の((注釈))があるというのは、いずれの矢倉であろうか。

1、答 只今の富士見の櫓は八方正面に有る。
        筆者が若年の頃、北条安房守氏長((注釈))殿が、小川町の屋敷で雑談されたのは
       「八方正面の矢倉というのは、太田道灌(どうかん)(ほど)の城構え縄張りの打者の
        ものでも、念を入れて、趣向をこらすものでは無い。
     第一、地形により、次には縄張りの模様により、自然に出来る事である。
        それなので、諸国に多くの城があるが、八方正面の矢倉というのは稀な事である。
        しかし、江戸城内に有るというのは奇妙な事である。
        (これ)()って、御当家、御繁昌の、めでたい事の前兆である。」

     といわれたのを久島伝兵衛・相州嘉兵衛・奈良十郎右衛門と筆者の四人が一座で聞いた。

     久島はその時、遠山伝兵衛といった。

(注釈)
     (やぐら)矢倉(やぐら)      四方を展望するために設けた高楼

北条(ほうじょう)安房(あは)(のかみ)(うじ)(なが)  北条流軍学者。大目付。1606〜1670年。

  江戸絵図の作者でもある。


    

第1巻2話