
第27話 小十人衆の事
1、問 当時、旗本衆で小十人衆という人々は、すべて由緒正しい方々と言う知行の
上に、扶持などを下されたので、着用の具足は、一・二は、何れも心掛けて
所持していたが、もしも出陣と言うた時になって、公儀から渡された、借し
具足より他に、自分の所持した具足を、着用すると言う事は出来なかった。
是には、何か子細が有ったのだろうか。
1、 答 この様な事は、公儀の事であれば、筆者が、委細を知る事は、無いけれど、
そなたが尋ねたので、自分の知っている事を一通り言うと、小十人衆という
のは、何れも、騎馬役というのでも無く、公儀で出陣が有る時は、馬回り、
歩行立の、お供を申上る予定の役目の衆中である。
しかし、ある程度、身が軽く駆け廻る事が、出来ない様な出立ちで無くて
はならないのである。
そこで、自分の好みの具足を着用したのでは、達者な技が出来なかった。
小十人衆の、借し具足というのは、世間では海老がら具足と言って、至って
軽く緒通し立った物であれば、例へ其身が不達者でも、又は、老人・病人で
あっても、歩行の邪魔にならないを、肝要としたのである。
更に、小十人衆の借し具足は、同一に一色に緒通し毛と言うのは、至極大切
な、馬回りの事でもあるので、注意して掛かったのである。
(注釈)
具足 甲冑。
馬回り 大名本陣の中核を形成する役職。
歩行立 歩いて出立する。
緒通し 鎧の札を糸または細い葦でつづること。
緒通し毛 鎧のおどしの革・組み糸の緒の類。