もうアンプは探さない
1997年発売当時定価230000円。1996年に発売されたPMA−S10は、オーディオ界に衝撃を与えましたが、PMA−S10を更にグレードアップした後継機として発売され、ベストバイを独占する確固たる信頼を得た名機でした。UHC-MOSを用いたUHCシングルプッシュプル回路が投入されているのは、初代機と同様ですが、かなり物量が投入されていて、初代PMA−S10と比べて物量の投入された充実した内容となっています。
20万円前後の価格帯で圧倒的な高音質機として衝撃を与えたPMA−S10の初代機と比べ、重量が約2倍の30kgとなり、電源部の整流回路には、優れた大電流供給能力に加え、動作速度と電圧のロスを大幅に改善した大電流ファースト・リカバリー・ダイオードを並列接続で採用、パワートランスは、大型磁気回路を低い磁束密度で使用することにより広いダイナミックレンジを持つ音楽信号への追従性を向上させ、パワーアンプブロックを左右独立させたツイン・モノラル構成により、回路間の相互干渉やノイズのによる音質劣化を防いでいます。また、電圧増幅段やフォノ・イコライザーの電源の巻線を独立し、信号リレー等を制御するコントロール回路電源のトランスも独立させるなど徹底したノイズ対策が取られ、パワートランス出力からパワーアンプ出力段までの配線は、極太のOFC配線材を使用するなど、元の音質のロスを無くす工夫も十分にされています。スピーカー端子はバイワイアリング対応、黄銅削り出しパーツに金メッキを施し伝送ロスを低減、さらに、クランプ部の穴径が6mmと太めになっているので、大型スピーカーケーブルでも接続しやすい仕様になっています。
中級オーディオで絶対的な信頼性と人気のあるPMA−2000シリーズの、更に上のグレードとして発表された初代PMA−S10は、30万円から50万円クラスの音質を20万円台という低価格で実現した革命的なアンプで、その音のグレードには驚かされましたが、本体は薄型で重量も約15kgと軽量でした。このPMA−S10Uに投入された物量、技術を考えると、初代PMA−S10は、この価格帯でシェアを取れるかどうかという市場調査的、実験的な発売だったような気もします。スッキリした薄型のデザインで、グレードの高い高音質を実現したPMA−S10は、NECのA−10シリーズやサンスイの907シリーズを超える音質で、大満足のプリメインアンプでしたが、シンプルなデザインだった為、バイワイアリングに対応していないなど、装備に不満もありました。しかし、初代機の大成功で、一気に本腰を入れ、更に充実した音質と使いやすいアイディア、装備が加わったPMA−S10Uは、非の打ち所の無い完成度の高さで、ジャズやロックを中心に鑑賞するのか、クラッシックを中心に聴くのかというジャンルでの悩みも解消してくれるような力強さと繊細さ、さらにスケール感を楽しめる理想的な音を実現したアンプだと言えるでしょう。
音場の奥行き、広がりはスケールが大きく感じますが、このアンプの音場間は、意図的に空間を広げようとする音作りというよりは、原音のリアリティを追求して得られた音場感だと思います。アンプの個性として音場空間のスケールを大きくしたタイプのアンプだと、音の質感が細くなり、どんな音楽を再生しても広がりのある音に聴こえますが、組み合わせるプレイヤーや、スピーカーケーブルによっては、まるで大浴場で音楽を聴いているような不自然な残響が残り、ヴォーカルや楽器の原音のリアリティが失われてしまうという難点がありますが、このアンプは、レコーディングされた音を原音に忠実に再生し、プロデューサーの意図した通りの音場空間を再現してくれるタイプで、スタジオライブ風のシンプルな音源は、コンパクトに、ライブ音源や、プログレッシブロックなどコンサート会場を思わせるような音場を再現してくれます。音のリアリティはあるけど広がりが無い、あるいは、広がりはあるけど音の質感が痩せているなどの不満を感じさせない音の質感と空間表現を実現しているので、幅広いジャンルで楽しめます。UHC-MOSを用いて繊細で力強いサウンドを実現した上に、8Ωで100Wのパワーを持っているので、ハードロックなどのヘヴィーなサウンドも、地を這うような低音から、天に突き抜けるような高音までリアルに体感でいます。できれば大型スピーカーで思う存分鳴らしてあげたいですが、コンパクトスピーカーでも十分に迫力のドライブ感を楽しめます。また、特に秀逸なのは、ギターやピアノなどの弦楽器とヴォーカルのみ、あるいは、ア・カペラでの音質と空間。ブレス感が感じられるほど間近で歌っているようなヴォーカルの質感、弦楽器の音がはじけて作り出される音の空間には、現実の世界を完全に忘れて音の世界に完全に入り込んでしまうような、不思議な感覚で音楽を楽しむ事ができます。
1997年製で、次世代オーディオ対応のアンプが発売される前のモデルなので以外に安く入手する事ができます。オーディオショップなどでの相場は8万円から10万円と、かなりお買い得です。個人的には、この完璧な音質を変える必要は無いと思うので、後継機種には、あまり興味がありません。SACD、DVDオーディオなどの高音質ソフトに対応した超高音再生が可能なアンプも魅力がありますが、実際には聴こえない音域は気にしないという方なら、10万円以下で購入できるプリメインアンプとしては、これがベストだと思います。
デノンのアンプを探す