
第62話 松平伊豆守殿と阿部豊後守殿 御同職 御同意の事
1、問 大猷院様が御他界の時に、老中方では阿部対島守殿・堀田加賀守殿の両人が
跡を慕って殉死された。
松平伊豆守殿・阿部豊後守殿の両人に、当分、御用達を命ぜられ、数年間
御同役を、仰付けられなかったのは、何か理由があったのだろうか。
1、答 この事について、筆者が聞いた事がある。
或る時、井伊掃部頭殿・保科肥後守殿、並びに酒井讃岐守殿が、列席で
伊豆守殿・豊後守殿へ、掃部頭殿が仰しやるには
「この間、御三家方からの仰せでは、当時代替わりに当って、特に御多忙
の様子と聞いているが、只、両人で勤めているというのは、大儀であると
申された。
我々も同感なので一人か二人を、御同役の中から仰付られては如何と思う。
誰でも御同役に仰付けたい人がいたら、その名を書いて出す様にすれば、
事を進めたい。」と申した。
両人が申すには
「御三家方も、私達両人で勤める事を大儀に思われ、同役を増やして下され
その上、同役を選んで二人に書き出す様にとの事で、重々有難度く思っている。
両人が相談して、御三家方への返答は、追って申し上げる。」と申した。
翌日になって、昨日と同じ方々の列席の所で、両人が進まれて
「昨日、御三家方の思い寄りがあり、仰しやった趣は、お心に入った事を
有難度く思うけれど、私達両人も殉死した両人と同様、先代の御厚恩を浴し
ている者です。
対島守・加賀守に替わっていう事も無い。
両人は、御他界の時、お供申上げて果たされた。
私達両人は、この様に存命し、畳の上の御奉公を申上げるというのは、張り
合いがある。
同役が少ないので、勤められないというのは、私達の口からは申上げられない。
しかし、幼君様の時代に不調法の私達両人で、大切な御用向を達したと言う
ので、他に同役を仰付られるとの、御三家方の考へであれば、その事は誰でも
吟味の上、何人であっても仰付けられたい。
その人々と申し合いで、動きをするのである。
私達の方から、同役を願う事については、申上げられない。」と申上げた。
掃部頭殿が聞かれ殊の外感心され、肥後守殿も同様、兎角の事も申されなく
ひたすら落涙された。
讃岐守殿は、掃部頭殿・肥後守殿へ向われ
「両人衆の、あの通りの思いであれば、お上のために結構な事である。
御三家方もすべて、ご満足であろう。」と申され事が済んだ。
この件は実説であったのか、稲葉美濃守殿を、老中役の見習として仰付かっ
たのは、かなり後の事であった。