A−10シリーズ最高傑作かも
1986年発売、定価118000円。NECのA-10シリーズ3代目、初代A−10に比べて音楽的に洗練されたA−10Uを、さらに改良。徹底した防振対策によって歪み感の無いピュアな音質を実現し、電源トランスの電流容量、平滑コンデンサの容量などが20%増強され、A−10U以上に骨太なサウンドになっています。
重量が25kgと、かなりの重量になっていますが、これは、底板に厚さ3.2mmの鉄板を使用するなど、防震対策が徹底されている事と改良された電源部に大容量のコンデンサなどが使用されているためです。シンプル&ストレートという音質的なコンセプトを元に、パワーアンプ部へのダイレクト入力を搭載して、CDなどのデジタルソースの優れたダイナミックレンジとハイクオリティを最大限に生かす工夫がされ、Phonoアンプとパワーアンプを高信頼リレーの使用で1接点直結としてしまうPhono
Direct Positionを搭載し、アナログ、デジタル両方のソフトで、ロスの少ない高温質な音質を実現しています。また、正極性と逆極性が混在する現在のCDソフトに対する対策として、逆極性のソフトのために極性反転Pre
Out端子を搭載しています。
個人的には、A−10シリーズの中で最も好きなアンプで、一番長く愛用していました。スタジオでプレイヤーの目の前で演奏を聴いているようなヒステリックな音質の初代A−10、より音楽的に聴きやすい音質に改良され、ちょっとソフトになったA−10Uの、ちょうど中間の音質で、初代A−10ほどヒステリックなエネルギー感は無いものの、A−10Uよりは、音質のエネルギー感、質感は上がっています。そしてメイン楽器の音の質感だけを追求した音質から繊細な音まで表現して、豊かな音場空間まで表現してくれるので、ヴォーカルや楽器のリアルな音の質感を愉しみながら、音楽的なトータルバランス、音場空間も楽しめる理想的な音質になっています。さすがに、近年ベストバイに選出されているDENONのS10シリーズなどと比べるとエッジの鋭いサウンドで荒さがあり、クラッシックやソフトなポップスを聴くと粗さを感じますが、ハードロック、ブルースロックなどを聴くなら、最近のアンプには無いエネルギー感と楽器のリアルな音質を楽しめると思います。空間表現力に関しては、広大で奥行きのある音場空間で、立体的な空間を表現するA−10Wと比べるとスケールが小さく感じますが、骨太な音の質感はA−10Wより、はるかに上で、広大な空間表現力によるAV兼用などの用途を無視すれば、やはり、A−10シリーズの中で一番バランスのいいアンプと言えます。ただし、1986年発売なので、本格的にCD音源に対する徹底したこだわりが感じられ、CDの両極性に対応した音作りなど、CDをメインソフトとして開発されていて、Phono
Directによってアナログレコードの再生の高音質化にも工夫がされているものの、アナログだけを楽しむのなら、サンスイの907シリーズの方が上かもしれません。
実際にギター、ベース、ドラムなどの楽器をプレイする方なら、すぐに分ると思いますが、楽器の音のリアリティという点で考えると、一番リアルで生々しいのは、やはり初代A−10で、2位は、このA−10Vです。しかし、初代A−10が立体感の無い音質なのに比べて、A−10Vは楽器の位置まで分るような奥行き感、立体感のある音場まで表現されているので、ただリアルな楽器の音を楽しめるだけでなく、個々の楽器のリアリティと音楽全体としてのバランス、音場空間を体感できるという意味では、やはり一番優れたアンプだと思います。赤字になるほどの物量が投入されている!、販売台数が少なく入手困難!などの希少価値のイメージに執着しなければ、安くてリアルでバランスのいい音を楽しめる名機としては、A−10シリーズの中では、このアンプが一番優れていると思います。
個人的にはA−10シリーズ中一番気に入っているアンプですが、一般的にはシリーズ中最も人気がなく、中古品の相場も3万円から4万円と安く入手できます。A−10Wが、まるで飛び出す絵本のような立体感でイメージチェンジを計り話題になった為、谷間の世代のような評価になっていますが、CDをメインソフトとして考えるなら一番お買い得なアンプだと思います。